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「わ、わたしは……」 「すげえ、マジで木原が『キイロイ』なのか!」  場の空気なんかどうでもいいのか、興奮した柿谷くんが目を輝かせて言う。 「あんなに強いゲンゲツ使いは日本でもトップレベルなんじゃないか?」 「あなたは少し黙っていて」  険のある言葉で柿谷くんを制して、マリさんがふたたび伊織さんに視線を戻す。 「オワリが言っていることは本当なの?」  問いただされた伊織さんが額にじっとりと汗を浮かべたまま黙り込む。さすがに可哀そうになってオワリちゃんを見ると、いつものニヤニヤ笑いを浮かべていた。そこでわたしは思い出した。『プールの怪』の解決のときにオワリちゃんがわざとわたしに金川さんへ質問をするよう誘導していたことに。あのときと同じ手口でマリさんを操って伊織さんが白状するよう仕向けているんだ。ほんとうにオワリちゃんは終わっている。 「はい……すべてオワリさんの言うとおりです」  オワリちゃんの思惑どおり、伊織ちゃんがついに口を割ってしまった。 「なぜウソをついたの?」  あくまでもマリさんが優しく訊く。マリさんはオワリちゃん以外のひとには優しいのだろう。だからこその生徒副会長なのだなと感心しながら、ずっとニヤニヤ笑っているオワリちゃんをなんかぶん殴りたくなった。ああ、なんでわたしはこっち側なんだ! 「それこそが今回の事件の発端だ。伊織ちゃんはマリに失望されるのが怖くてズル道を使い、寝坊の理由についてのウソをついたんだ」 「なにが言いたいの?」  マリさんとは違い、わたしにはなんとなくオワリちゃんの言いたいことが分かった。 「ずっと言っているだろう、その真面目さはいずれ周りの人間を苦しめることになると。ゲームをしていて寝坊をし、(あまつさ)え遅刻してしまうことで民谷マリを失望させてしまうことになると伊織ちゃんは思ったんだよ。今回の怪事件は『民谷マリに失望されたくない』という伊織ちゃんの思いが引き起こした事件だったんだ」  マリさんこそが事件の発端で、オワリちゃんはそこまで気がついてこの流れになるのを仕組んでいたんだ。オワリちゃんが思いついた「いいこと」って、マリさんを糾弾することなのだろうか? マリさんのことが嫌いみたいだし、オワリちゃんならやりかねないけど。 「わたしはひとの趣味に口を出すほど傲慢な人間じゃないわ。夜更かしが原因で寝坊してしまったのは良くないことだけどウソをつくのはもっといけないことよ、木原さん」 「はい……」  すっかり落ち込んだ伊織さんにかける言葉が見つからないでいると、 「木原さん、この失敗を糧にしなさい」  と、マリさんが入学式のときの言葉を伊織さんにかけた。やっぱりかっこいい。オワリちゃんとはぜんぜんちがう。
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