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「さて」
オワリちゃんがひとつ手を叩いた。
「この怪事件で最もわたしが気になったことがある。最後にそれを解決しよう」
「これ以上、なにがあるっていうの?」
マリさんの言葉を無視して、
「伊織ちゃん、きみはなぜゲンゲツのキーホルダーをペンケースに付けていたんだい?」
と、オワリちゃんが伊織さんに訊いた。いまさら掘り下げることとは思えないけど、柿谷くんへの検証につながる話なのだろうか?
「前も言いましたけど、父に貰った物だから付けていただけです」
「その理由が腑に落ちないとわたしは言っているんだ」
「……どういう意味ですか?」
「きみはゲーム三昧の柿谷くんにいつも小言を言っていたんだよね。だとしたら『SAIKYOU5』をやっていることを知られるリスクを冒してまでペンケースにキーホルダーを付ける行為は矛盾している。きみは師匠の隣の席なのだろう?」
「……」
「本当は師匠に気がついてほしかったんじゃないのか?」
「そんなわけ――」
「――だがきみの思惑とは裏腹に師匠はいつまで経ってもキーホルダーに気がつかなかった。何故だかわかるかい?」
「……分かりません」
「師匠は最近になって視力を落としていたんだよ」
「あ!」
思わず声をあげたわたしにオワリちゃんを除くみんなの視線が集まってしまった。
「気がついたようだね、要ちゃん」
「は、はい。昨日の聞き込みのときオワリちゃんはずっと胸ポケットからゲンゲツのキーホルダーをぶら下げていたのに柿谷くんは最後まで気がつきませんでした」
「そのとおりだ。伊織ちゃんへの聞き込みのときに柿谷くんと仲が悪いと言っていたから、わたしはきみのキーホルダーの矛盾に気がついた時点で柿谷くんは目が悪いのではないかという仮説を立てた。検証の結果は言わずもがなだ。師匠、あなたはだいぶズボラなひとのようだし、メガネを作るのを面倒くさがっていたのではないですか?」
「まあ、そうだけど……」
オワリちゃんの推理力にひいている柿谷くんの隣で黙り込む伊織さんの裏腹な気持ちが同じ女子だからこそわたしには痛いほど分かっていた。ゲーム仲間が欲しいだけなのに女子というだけで色々なトラブルの種になりがちだからだ。わたしも前に知らないおじさんにしつこく粘着されたことがあって、それからは女子だとバレないように『獰猛なゴリラ男』というIDでやっている。
「伊織ちゃんには格ゲーの才能がある。師匠もなかなかの有望株だ」
話を続けるオワリちゃんに、
「なにが言いたいの?」
と、マリさんがうんざりとした顔で訊く。
「このふたつの若き才能を育てるためには、我が校にeスポーツ部を設立するべきだ。師匠もそれを望んでいましたよね?」
突然のオワリちゃんの提案に、わたしを含めたみんなが驚く。
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