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「こういう幽霊は初めて見ました」  感動の目で成井さんを見るスキンヘッドくんとはちがい、今までずっと誰にも言えなかった秘密を共有できる人間が目の前に四人――幽霊を数に入れていいのかはわからないけれど――もいるってことを、まだわたしは受け入れられなかった。それに加えて、なぜわたしたちふたりがここに呼ばれたのかも分からない。 「わたしたちは『幽霊部』だ。非公認だが、怪奇現象に困っている生徒を助けるボランティア団体だと思ってくれてかまわない。きみたちには新たな戦力として我が『幽霊部』の一員になってもらいたい」  あまりに突飛すぎる発言に、わたしは口をポカンと開けてしまった。 「正義の味方ってことですよね! かっこいい!」  前向きに目を輝かせるスキンヘッドくんに、全然ついていけない。 「おお、いいね。きみ、名前はなんだったかな?」 「前島(まえじま)ひとりと申します!」  スキンヘッドくん――前島くんが自己紹介をし、入部する流れになってしまった。でもわたしは幽霊が見えることを周りの人にずっと隠してきたし、「見える」だけで祓ったりできるわけじゃない。なにより極度の怖がりだ。  断ろう。  覚悟を決めて顔を上げると、オワリちゃんにじっとりと見つめられていた。 「わ、わたしも――」  ――ああ、また流されてしまうんだ。ほんとに自分がイヤになる。 「待て」  大げさに右手を前に出したオワリちゃんに言葉を遮られた。 「要ちゃんの意志で入部するのでなければ意味がない。強制入部なんて、それこそ無粋な真似だからな。この選択をあとで失敗だと思われるのはいやだ。失敗なんかしないほうがいいに決まっている」  生徒副会長と真逆のことを言われてどう返答すればいいのか分からずに黙っていると、突然ドアの開く音がして機嫌でも悪いのか眉間にシワを寄せたショートカットの女子生徒が入ってきた。 「ここが幽霊部?」  威圧的な声の女子生徒がツカツカと歩いてきてオワリちゃんの前に立った。 「ほう、きみがこんな場所に用があるとは思えないが」  女子生徒へグッと近づくオワリちゃん。どうやら人との距離感がバグっているらしい。 「あなたは胡散臭いけど、ここしか頼れるところがないからね」  オワリちゃんを睨みつけたまま女子生徒が言う。 「あ、あの、この人は?」  突然の訪問者のことを聞くと、 「ああ、この子は金川美保(かながわみほ)。わたしのクラスメイトだ。気が強いのが玉に瑕でクラスの男子に恐れられている可哀そうな子だよ。だが水泳部のエースで『根崩高校の魚雷ちゃん』という立派なあだ名を持つすごい人だ」  と、オワリちゃんが女子生徒――金川さんの肩に手を回して自慢げに答えた。  オワリちゃんの言うとおり、近づきがたい雰囲気を持っている金川さんは、ショートカットが良く似合う、オワリちゃんとは正反対の健康的な体つきの人だった。  金川さんはオワリちゃんの手を叩きはらい、 「そのあだ名はあなたがつけて、あなたが呼んでいるだけ。それより幽霊がらみのことを解決してくれるんでしょう? ほんとに困っているから、早くどうにかして!」  と、さすがにオワリちゃんに失礼じゃないかというくらい強く言った。 「ほお、お言葉だねえ。きみはわたしのことが嫌いじゃなかったっけ?」 「嫌いなわけじゃない。わたしはあなたのように、なんの努力もせずにダラダラと生きている人間をなんとも思ってないだけ」 「ふっふっふ。実に素直だな。わたしはそういうきみが嫌いじゃないよ。で、依頼の内容は? 聞くだけ聞いてやろう」 「……プールに幽霊が出るの」 「ほう、詳しく聞かせてくれ」 「二か月前の――」  ――二月の半ばを過ぎたあたりから、プールでの練習中にどこからともなく現れる黒い影に金川さんだけが足を引っ張られるようになった。だけど力が弱いのか影は金川さんを溺れさせることなんかはできなくて文字通り足を引っ張ってくるだけで、お陰で金川さんはタイムを大幅に落としてしまい、そのせいでスランプだと判断された金川さんはレギュラーから落ちて最悪の状況なのだとか。金川さんは真相を他の部員に言ったところでどうにもならないと思い、今まで誰にも話していないという―― 「――ほっほっほ、面白いな」  独特な笑い声をあげてオワリちゃんが目を輝かせる。 「面白くなんかない! わたしはほんとに困っているの!」 「安心したまえ。『プールの怪』は、このわたしヨモスエオワリが終わらせる!」  深刻な表情の金川さんに見得を切り、オワリちゃんが胸を張った。
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