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「というわけで、潜入捜査だ」
「なんでわたしまで――」
――三日前、金川さんが部室を去ったあと、オワリちゃんは「幽霊部がどういった活動をしているのか、実際に見て判断をしてほしい」と仮入部を提案してきた。曖昧な返事をしてやり過ごしたけど、今朝オワリちゃんからケータイへ「水着を持って来るように」というメッセージが来ていた。
逆らったらどうなるか分かったものじゃないから水着を用意して登校したわたしは、放課後に教室にやって来たオワリちゃんに有無も言わさずプールまで連れて来られていた。
どうやらオワリちゃんは、わたしが仮入部の提案を了承したと思っているらしい。
「話はとおしてあるから、大丈夫だ」
「だから、なんでわたしまで潜入捜査を? そもそも――」
――不満タラタラのわたしの唇を人差し指でふさぐオワリちゃん。初めて
会った日の、あの恥ずかしい記憶がよみがえる。
「とても簡単なことだよ、要ちゃん。わたしは泳げない」
「えぇ……」
随分と自分勝手な言い分だ。
「オワリが言うのだから、諦めて従ったほうがいい」
成井さんが言って、首を横に振る。
なんで成井さんはオワリちゃんの味方なの?
「ほら、来たぞ」
オワリちゃんの指さす先を見ると、プールの入り口からおかっぱ頭の小柄な男子がひょっこりと顔を出していた。とても運動部にいるとは思えない、色白の気弱そうな人だ。
「ほ、ほんとに来たんだね」
「だから言っただろう。体験入部の希望はウソじゃないって」
不気味な笑みを浮かべたオワリちゃんが堂々とウソをつく。
「この子がもうひとりの体験入部希望のひと?」
「そうだよ。かわいいだろう。見込みのある一年生だ」
「あ、あのー」
「ああ、彼は梶宮健。わたしのクラスメイトで水泳部だ。彼に取り次いでもらったんだよ」
紹介された梶宮さんにオドオドとした態度で頭を下げられ、わたしも頭を下げ返す。
「さあ行こうか、梶宮くん」
「う、うん」
梶宮さんの案内で中へ入ると、すでに水泳部がプールサイドで柔軟体操をしていた。
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