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「四方末さんが水泳に興味があるとはね」
ジャージ姿の若い男性がオワリちゃんに微笑む。
「心外ですねえ。わたしはこの世のすべてに興味があります」
「ははは、きみは本当に面白いね」
「わたしなんて、とてもとても」
厄介者だとしか思えないオワリちゃんに慈悲深い目を向ける先生――曳田大先生は、プールへ向かう間にオワリちゃんから聞いていた情報によると、二十六歳の体育教師でぶっちぎりの女子人気を誇る先生とのことだった。確かに長身でアイドルグループにいてもおかしくない爽やかな顔立ちだから人気なのも分かる。
プールサイドには、女子部員が二十五人に男子部員が五人。みんながみんな、オワリちゃんとは対照的な健康優良そうなひとたちだった。
おもむろにベンチへ腰かけて足を組んだオワリちゃんが、
「ちなみに体験入部は彼女がします」
と、わたしを指差して当たりまえのように言った。
「えっと、四方末さんは?」
戸惑った様子で曳田先生が聞く。
「わたしは付き添いです。彼女は新入生の磯崎要。要ちゃんと呼んでやってください」
勝手に自己紹介をされたわたしに曳田先生が微笑みかけてきた。目鼻立ちの整った顔があまりに神々しくて、顔が熱くなるのが自分でもはっきりと分かる。
「磯崎さんは新入生だよね。水泳部に興味を持ってくれたのは嬉しいな。中学でも水泳部だったの?」
「あ、いえ、水泳は体育の授業でしか経験がないです」
「そうなんだ……まあ、ウチは未経験だった人ばかりだから大丈夫だよ」
なぜか含みのある言い方だけど、そんなことより曳田先生の白い歯が眩しすぎる。
「金川ちゃん、彼女の案内をしてくれ」
ベンチでふんぞり返るオワリちゃんに命令された金川さんが、
「は? なんでわたしが?」
と、眉間にシワを寄せた。
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