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 事情も知らずに好き勝手を言うひとたちに抗議すらできない自分自身に歯がゆさを覚えていると、プールを上がった梶宮さんが金川さんのもとまで駆け寄り手を差し伸べた。 「憐れみのつもり? どうせ、あんたも心の中でわたしを笑っているんでしょう?」  と、梶宮さんの手を叩くように払いのけてプールから上がった金川さんが、とても強い怒りを梶宮さんにぶつけた。 「そ、そんなつもりじゃない。ぼくはきみを――」 「――やめて! あなたに同情されるのがいちばん辛いの! どれだけわたしを傷つければ気が済むの?」  吐き捨てるように言って、そのまま金川さんは更衣室へ消えてしまった。  今にも泣きだしそうな顔でこっちへ戻って来た梶宮さんに、 「あの、平気ですか?」  と、いてもたってもいられずに声をかけると、 「ありがとう。でもぼくが悪いんだ。補欠に憐れまれるのが許せないだけだよ」  と、梶宮さんは悲しそうに笑んで男子部員たちの輪に戻っていった。 「梶宮もかわいそうにね」  隣の女子水泳部員がため息を吐く。 「美保ってああいう性格だから、みんな付き合い方に困っているんだ。でも梶宮は美保の幼なじみで、心を開ける唯一の相手だったみたい」 「とてもそうは見えませんでしたけど」 「二か月くらい前かな、理由は分からないけどふたりはあんな感じになっちゃったの。美保のスランプもその頃からだし、きっと何かあったんだろうけど、それを聞けるほど美保と仲良しじゃないからね。おかげで水泳部は最悪な雰囲気よ。入部はオススメしない」 「よく言うね、佐竹ちゃん。佐竹凛花(さたけりんか)といえば、『根崩高校の半魚人』と言われる、金川ちゃんと双璧を成すもうひとりのエースじゃないか」  いつの間にかだらしなくベンチに寝そべっていたオワリちゃんが口を挟む。 「……そんな名前で呼ばれたこともないし、なにが言いたいのか分からない」 「彼女が落ちたことでエースの座につけたことが、実はとても嬉しいんじゃないのかい?」  笑うオワリちゃんを睨みつけ、 「やっぱりサイテーね。美保のスランプに喜びなんて感じるわけがないでしょう」  と、佐竹さんがうんざりとした顔になる。 「はっ、どうだかな」 「……この水泳部のおかしさにまだ気がついてないの?」  反撃でもするかのように佐竹さんがオワリちゃんに訊く。 「分からないな。なにが言いたい?」 「女子水泳部員が多すぎるってこと。言いたくないけど他の女子部員は、とても競技には向かない人たちよ。わたしと美保だけがほんとに水泳が好きで部活をしているの」  ああ、そういうことか。金川さんと佐竹さん以外の女子水泳部員は、曳田先生が目当てなんだ。さっき曳田先生が含みを持たせた言い方をしていた理由が分かった気がする。まあ、気持ちは分からなくないけれど。
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