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イベント当日、少し早めに着いた。ナナさんに渡すお土産もバッチリ!
まずは準備をしよう。直接搬入にしたから初めて自分の本を手にする。ちゃんと本になっていることに感動した。印刷所さん、ありがとう。
丁寧に並べていると、隣のスペースに人が来た気配が……。緊張のしすぎでそちらを向けない。でも、自分から挨拶をしなければ! と深呼吸して頭を下げた。
「初めまして、ヒナといいます。ナナさんのファンです!」
「……日向?」
聞き覚えのある落ち着いた声が本名を呼ぶ。恐る恐る顔を上げると、隣に住んでいる幼馴染の七瀬と姉のあゆちゃんがいた。
固まる俺と七瀬。1番最初に口を開いたのはあゆちゃんだった。
「日向くん、腐男子だったの?」
「いえ、人違いです」
背を向ける。少し整理したい。
ナナさんはどっち? 名前からしたら七瀬っぽいけど。七瀬は漫画を読むけど、BL読んでいるイメージは全くない。そうするとナナさんはあゆちゃん? 七瀬は売り子って事になる。
姉が腐女子で売り子をするって事は偏見はないだろうが、昔から知っている幼馴染に俺が腐男子である事は知られたくない。よし、やっぱり他人のフリをしよう。
「日向くんじゃないの? 日向くんだったら代理でお買い物してあげようと思ったのに」
そう思ったのに、俺の決意は揺らいだ。本を買いたい作家さんは何人かいる。俺がスペースを離れて買い物する時には、売り切れている可能性もある。断腸の思いで買い物リストと財布を差し出した。
「ごめんなさい、日向です。あゆちゃん様、よろしくお願いします」
「最初からそう言えばいいのよ!」
そう言うとあゆちゃんはスペースを離れていった。
「えっ? いいの? 七瀬1人になって」
「うん、姉さんには買い物と僕がスペース離れる時にいてもらうためについてきてもらってるだけだから」
「……ってことは、お前がナナさん?」
「そうだよ」
「……一部ずつください」
「あっ、僕も新刊ください」
代金を支払い、本を受け取る。
ナナさんの同人誌を買えた。手が歓喜で震える。
隣に目を向ければ、七瀬が俺の本を嬉しそうに抱えていた。
「あっ、コレ、ナナさんに渡そうと思ってたお土産」
「コレって近所で人気の洋菓子店じゃん」
「うん、ナナさんお菓子食べながら漫画描いてるってSNSに投稿してたから、クッキー好きかなって思って」
「ありがとう。僕もヒナさんにお土産あるよ」
「え? 何で?」
「だって僕、ヒナさんのファンだし。だから今日会えるのすごく楽しみにしてたんだよ」
「……悪かったな、それが俺で」
「何で? すごく嬉しいよ。日向と推しカプの話したり、原稿合宿とかできるって事でしょ?」
「マジ? 俺としてくれんの?」
「うん! ヒナさんのSNS見て、いつもハートマーク5億回押したいと思うくらい解釈一致しすぎてて、今日本当に会えるの楽しみにしてたんだ。ヒナさんが日向ですごく嬉しい!」
七瀬が柔らかく笑うから、俺まで頬が緩む。
「なぁ、この後予定なければアフターしないか?」
「もちろん! 僕の家でどう? 家ならすぐに戦利品も読めるし、重い荷物持ちながら歩き回らなくてもいいし、騒いでも問題ないし」
「行く! 楽しみだな」
「僕も!」
早い時間は自分のスペースで、買いに来てくれた人たちとたくさん話ができた。
買い物リストに書いた本を全部手に入れてくれたあゆちゃんには、足を向けて寝られない。しかもスペースにいてくれるというので、七瀬と順番でイベント会場を回れた。欲しかった本は売り切れていたのもあって、本当にあゆちゃん様様だ。
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