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朝起きて頭を抱える。
俺は何でこんなに感想を書くのが下手なのか。好きだという気持ちを伝えたいのに、語彙力が消滅している。本を読んでテンション上がったまま送るとダメだ。1日置いて冷静になってから送信しないと。しかも送った相手が七瀬……。でも、匿名だし俺だってバレないよな。
悩んでも仕方がない。とりあえず学校に行こう。
3限まで終え、帰宅途中でコンビニに寄ってお菓子やジュースを買い込む。打ち上げなのだから少しリッチにしようと思い、普段は高くて買わないアイスも買った。
インターホンを鳴らすとすぐに七瀬が出迎えてくれる。
「学校お疲れ様。イベントの次の日だとしんどくない?」
「そうでもないかな。昨日疲れすぎて早めに寝落ちしたから」
「僕は遅くまで読んじゃって、さっき起きたよ」
部屋に入ってアイスを渡す。溶ける前に食べないともったいない。七瀬は嬉しそうに受け取った。アイスでテンション上がっているのではなく、昨日買った本がよほど良かったのだろう。ずっと浮かれている。
「七瀬が上機嫌なのは買った本が良かったからか?」
「もちろん! でも、他にもいい事あったんだ。イベント当日に感想もらえてすごく嬉しい」
……多分それ、俺。いや、ナナさんの本は最高だったから、他にも感想送ってる人はいるかもしれないけど。だって俺の感想ひどいから、そんな喜ばれるようなものじゃないし。
「それで返信したいんだけど『ありがとうございます、嬉しいです』みたいな事しか書けない僕のボキャブラリーの無さに悲しくなる」
「いいんじゃないか? 俺だったらナナさんから返事がきただけで嬉しいけど!」
「そうかな? じゃあ返事するね」
SNSを見ると俺の書いた感想に返事をくれていた。俺の方が語彙力ないだろ。でも、俺の感想でこんなに喜ばれると、嬉しさと照れが入り混じった感情で溢れる。
メッセージアプリを開くと、七瀬が俺に何か送ったらしいが、メッセージが消されていた。
「なぁ、これ消されてるけど、誤送信でもしたのか?」
画面を見せると七瀬はバツが悪そうに視線を外した。
「えっと、聞かないでもらえる?」
「そう言うって事は誤送信ではないんだな。言えよ。……もしかして俺の本ヤバかった? 誤字脱字だったり、折れてたり破れてたりしたか?」
「違う違う! すっごく良かったから感想送ったんだ。日向、匿名で送れるメッセージ設置してないじゃん。だから直接感想送ったんだけど、既読付いてなかったから僕の感想頭悪すぎて消したの。恥ずかしくなって」
えっ? 感想くれたの?
「もう一回送って!」
「ヤダよ」
「でもさ、俺が送った感想だって、自分で後から見たらひどいと思ったぞ。それでも七瀬は喜んでくれたじゃん」
「え? 昨日送ってくれたのって日向?」
「そうだよ。だって俺、ナナさんのファンだし」
七瀬がスマホを操作すると、俺のスマホがメッセージを受け取って鳴った。
『ヒナさん、本を出してくれてありがとうございます。すれ違っていた2人が切なすぎて涙が出ました。最後はぐっと距離が縮まり、温かい気持ちになりました。すごく素敵でした』
感想もらえて嬉しいという気持ちが分かった。
「笑わないでよ! 僕、恥ずかしいけど再送信したんだよ」
「違うよ、嬉しくて笑ったの。それに、七瀬の感想より俺の方がやっぱり語彙力ないし」
2人して自分の方がひどい、と笑い合った。
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