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「あのさ、2ヶ月後にあるイベント、まだ申し込みできるから日向と一緒に参加できたら嬉しいんだけど、どうかな?」 「今回みたいに1人で出ないのか?」 「1人でもいいんだけど、一緒の方が楽しいし。それにサークル参加すれば、またヒナさんの新刊が読めるじゃん。僕が1番最初に買えるし、僕にとって嬉しい事しかないでしょ」  七瀬と一緒に参加は確かに楽しそうだ。俺だってナナさんの新刊欲しいし、1番最初に買いたい。ファンだから。 「いいよ、一緒に出よう! ……えっと、あのさ、嫌だったら絶対断れよ。俺の新刊の表紙描いてくれねーか?」  七瀬は目を大きく見開き、バイブ機能でも搭載されているのか、と言うほど震えだした。やっぱり図々しかったかな。七瀬とは生まれた時からの仲だけど、ナナさんとはまだ数ヶ月。SNSで少しやりとりしたくらいだもんな。 「えっ? 僕がヒナさんの表紙? 僕なんかでいいの? でも絶対描きたい。僕以外の人がヒナさんの表紙描くとか耐えられない」  七瀬に肩を掴まれて揺さぶられる。気持ち悪くなるからやめてくれ。離してもらい、大きく息を吐き出して落ち着く。 「それでさ、いくらで描いてくれる?」 「いらないよ。描かせてもらえて嬉しいくらいだし」 「そういう訳にいかないだろ」 「いらない。新刊落とさないでくれたらそれだけでいいから! 僕、ヒナさんの本読みたいから、落とすことだけはやめて」  七瀬の目が笑っておらず、何度も頷いた。七瀬を怖いと思ったのは初めてだ。 「じゃあ俺が出来ることないか?」 「何でもいいの?」 「常識の範囲内ならな」 「ポーズとって写真撮らせて。色んなアングルで描きたいのに、描きやすい角度が多くなっちゃうから。絶対にぜーったいに資料としてしか使わないから!」  俺の写真なんて他に使い道なんてないだろうに。何をそんなに必死になっているのか。 「俺がモデルになれば、ナナさんの漫画がさらに良くなるって事なんだよな?」 「うん、頭の中でだけだと、どうやって描けばいいか分からない時もあって。写真があれば参考になるから」 「ナナさんの漫画の為なら、恥ずかしいポーズでも何でもやるよ! 俺だってナナさんの漫画楽しみなんだから!」 「ありがとう。じゃあ脱いで」 「は? 何で?」  当然のように言われるが、何で脱がなければいけないのか。 「だって服があると筋肉とか体のラインとか分かんないじゃん。日向には筋肉ないけど。じゃあパンツは穿いててもいいから」 「コソッとディスるな! 七瀬だって筋肉ないだろ! それより、素っ裸で撮るつもりだったのか?!」 「日向、僕はBLを描いてるんだよ。裸を描くのに服着た資料撮っても意味ないでしょ」  顔を両手で覆って俯く。ナナさんの漫画の為、と繰り返し言い聞かせて勢い良く服を脱いだ。どんなにナナさんの為と言い聞かせても、全裸は無理。気心の知れた七瀬の前だとしても。
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