善良な老夫婦の定義

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「なんかお宝を見せるだけ見せて、そのプロセスだけ教えるっていうのも俺的には、なーんか意地悪な感じがするんだよなあ」  坂田は一文字も書かれていないレポート用紙を片付け始めた。 「まあ、やり方教えたんなら、せめてもおむすびを穴に落とし入れるところくらいまでは付き添ってやれよとか思うよ。だってどうせあいつら暇だろ?」  ああ、おむすびころりんか。というか、話の内容が段々雑になっている気がする。 「だから、案外良い老夫婦もそこまで善良な人間じゃないんだ。で、いじわるな老夫婦が隣の夫婦を見て妬むのも俺はもの凄く納得出来る」  すると、坂田は俺の目の前に広げてあるレポート用紙に手を伸ばす。 「だって俺も、過程よりも結果を教えてもらいたいもんなー」  坂田は先程俺が書き終えたばかりのレポートを摘まみ取ると、自身のバックパックを担いでさっさと立ち去っていった。 「あ、おいこら坂田! 俺のレポートパクる気だろ! あのじいちゃん教授案外そういうとこ厳しいんだからな」  俺は急いで坂田を追いかけるが、坂田は逃げ足が速い。坂田は俺の方を振り返りながら、 「文章はちょこっと変えるからさー。なっ、お前は本物の善良な老夫婦でいてくれよー」  俺は息を切らしながら、坂田に呼びかける。 「はあ、意味分かんねえ! しかも、夫婦は一人じゃなれないだろうが! はあ、はあ。じゃあ書きも教えてやるし、書くとこも見ててやるから、とにかく返しやがれ!」  遙か遠くに坂田の顔が見えた。 「じゃあ、俺たちで善良な夫婦になろーぜー」  何を言っているんだ、まったく。坂田の言動はまだまだ、俺には読めない。
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