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「僕達を父さん、母さん呼べるのはタクミだけだと思っているから、タクミの友達がタクミのお父さん、お母さんって言うのは間違いじゃないけれど……」
うまく話せなくなって困った顔で草摩が久美を見ると、久美も思案して少し沈黙してから口を開いた。
「固定されるのが嫌、かしらね」
「どういうこと?」
「そうね……親になる前は所沢 久美というひとりの人間として当たり前に生きていたのだけど、親になった途端、タクミのお母さんと限定されやすくなるのね。親の顔が加わっただけで、仕事の顔も、個人の顔もなくなるわけじゃないのにね」
タクミは久美の言葉が難しくて首を傾げすぎて床に転がった。草摩がタクミの頭を撫ぜて優しく目を細めた
「つまり、タクミのお父さんの草摩さんだよってこと」
「んー? ……あ、タクミのお父さんが名前じゃないよってこと?」
「そういうこと」
「そっかー、確かに俺も間違っていないけれど久美さんの息子さんで切られると、いやタクミだよって思う時あるー」
「私達は個人も大切にしましょうって気持ちが一緒で結婚したからタクミのお父さんとお母さんで、久美と草摩さんなのよ」
「あー、なんかすっきり」
ふふっと2人が顔を見合わせて笑い合う。そんなところを見るのはタクミはかなり好きだ。
「母さんがいなくなるのも基本お仕事、たまに息抜きって言っているもんね」
「僕は久美さんが生き生きしているのが好きだから。どんどん息抜きに行ってほしい」
「それを次の家族旅行のリサーチと言うのが草摩さんらしいわよね」
「実際、俺が行きたいと言ったら下見に行ってくれるもんね」
久美が下見に行った後で行く旅行で嫌な思いをしたことは一度もない。下見に行ってもいわばネタ晴らしは一切しない。先に問題があればそれを解消してくるだけ。未だに久美の正式な職業名は教えてもらっていないが、普通には解決できない困ったことを解決しに行く仕事、なんだそうだ。
「久美さんがいない時は僕が全力で親ですよーって見せ場になるから、僕としてはいっぱい参加できて楽しい。久美さんと一緒に行くのも大好き」
「草摩さんが行けない時は、私がしっかりタクミを見て、草摩さんに全部報告するから」
ね、と顔を見合わせ合う両親はとても仲が良い。タクミにとっての理想の夫婦だ。2人の言葉が揃う。
「うちって、ヘン?」
「ううん、フツー」
タクミはにっかりと満面の笑み。それを見た久美も草摩も満足気な笑顔。
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