0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ、母さん。うちって変わってんの?」
洗濯物を共に畳みながらタクミは首を傾げた。タクミは小学五年生で一人っ子。家の手伝いは普通にするし、家族仲が悪いとも思わないし、何ら疑問も抱いていなかった、今までは。だから、突然そんなことを聞かれた母、久美もコテリと首を傾げた。
「どこらへんが?」
タクミは友人や教室での周囲の反応を思い浮かべながら指を折ってあげていく。
「父さんがしょっちゅういなくなる。おれが家のことをよくやる良い子。母さんも父さんも他の人に○○のお母さんとか呼ばせない。父さんと母さんが互いにさん付け。母さんもちょくちょくいなくなる。父さんが参観日に来る……とか」
久美は心底不思議そうでふぅんと唸ると背後に「私達変わっているみたいよ?」と振り向いた。いつの間にかリビングのソファに寛いでいた父、草摩がいてタクミは内心驚いた。草摩は驚くほど気配がない。
「いたの、父さん」
「ああ、おはよう、久美さん、タクミさん」
「おはよう、草摩さん」
ここでもう昼だけどなんてことを久美は言わない。草摩が起きた時が朝なのだ。
「今日はキャベツと豚肉のパスタを食べたいから僕が作ってもいい?」
「あら、じゃあお任せするわね」
「ん」
相手に作ってほしい時はリクエストするけれど、基本的に自分が食べたいものは自分で作るのが所沢家の流れだ。タクミはどっちが作っても美味しいからどちらが台所に立っても大歓迎だ。どっちの場合も一緒に台所に立つ。料理の腕を磨いて好きなものを作る立候補に自分も加わりたいからだ。それも変わっていると言われるけれど。
「僕がよくいなくなるのは探偵だからね。守秘義務も多いからタクミにも内容は話せないし、仮に言ってもタクミは周りに言えないし……」
さり気なく洗濯物を畳むのに加わりながら草摩はぼんやりと会話を繋げる。久美はうんうんと頷きながら会話を繋げる。
「タクミが家のことをするのは良い子っていうより、それを当たり前に育っただけな気がするわ。私達から特に手伝えとか言ったことないし……」
「そもそも良い子が変わっているって、そっちの方がヘンだよね」
「そうよね」
最初のコメントを投稿しよう!