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二度と出勤することのない会社からの帰り道、いつものように、居酒屋通りにある公園のさびたベンチの上で缶ビールをあおる。
道の脇にずらりと並ぶ居酒屋の、煌々とした光がこちらへ漏れてきて、向こうの世界が苛立つほど華やかに見えた。
「あーあ……」
転職活動なんていう気には、これっぽっちもなれなかった。
こうなってしまったとはいえ、新入社員のときからずっとお世話になった会社だ。
自分のすべて、というほど大したものじゃないが、多くの時間と労力を費やし、たくさん成長させてもらった。
かといって、ずっと無職でいるわけにもいかない。
自分が働かなければ妻を養えないし、退職金があるので一時は困らないだろうが、どんどん物が増えていくあの家で生息していくには気が狂うだろう。
そんなことを思っていると、洋子からの電話が鳴る。
あまり連絡をしてこないが、今日はきっと僕の帰りが遅いせいだ。
今はそっとしておいてほしい。
マナーモードにして、スマートフォンをポケットにしまった。
いつから僕たちはこんな関係になってしまったのだろう。
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