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内装には若干、変更がある。よく見れば経年汚れのあった壁は明るいオフホワイトに変わった。常連さんの息子さん――かつては母親に連れられ、ハルに髪を切ってもらっていた――が内装業をしており、髪を染めてもらう代わりに塗り替えてくれたそうだ。
「細かいねえ。マニキュアのボトルも全部、色が違うんだねえ」
ハルが目を細めて、マニキュアのボトルを見る。
かつては三つフル稼働していたというカット台も、ハルの代になって稼働するのは一つになった。ハルと希来里でそれぞれ一台使い、残りの一台があったところで、これからはネイルができる。ハルから聞いたところによると、羅々は東京でネイリストをやっていたそうだ。それを希来里に伝えたところ「鈴野美容室(うち)でネイルやってもらえばいいじゃん」と提案されたらしい。
ネイルだけでもいいし、カットついででもいい。もう仲良くなったらしい希来里が羅々に体調を見ながらやってみないかと提案したところ、羅々も前向きだったそうだ。ついでに希来里が「まず私のネイルを……」とちゃっかりお客様第一号の予約をしていたと聞いている。
それを聞き、葛西が急遽ネイル道具一式のミニチュアを作った。葛西いわく「未知の道具」であるネイル道具には苦戦したらしい。ネットで様々なカラーがあることを知り、祖父とともに「グリーンティーいけますよね」「煮凝りもアースカラーってのでいけるんじゃないか?」とこそこそやっていたのは、しっかり七瀬の耳に届いている。
文代も羅々がネイリストであることを知り、鈴野美容室でネイルができるのを楽しみにしている一人だ。
『私たちみたいなおばあちゃんだと、ネイルをするのは敷居が高くてね。こんなおばあちゃんが行っていいのかと思うのよ。だけどお姉さんのところでできるなら、やってみたいわ』
少女のように目を輝かせ、うっとりしていた文代は、羅々が来るのを首を長くして待っている。
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