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おじいちゃんの古民家風呉服店
普通とはなんだろうか。
東京発盛岡行きのはやぶさに乗車し、窓側の席に座って佐倉七瀬は考える。
正社員として働いて、同世代の恋人がいる。平日のランチは気の合う同僚と、夜は飲み会と称した合コンや部の懇親会に出席する。休日は友人や恋人とショッピングや外食を楽しむ。その合間にネイルやエステ、キャリアアップのための自己研鑽も惜しまない。
ハイブランドに手が届かないなら、少なくともミドルブランドの服で身を固め、ハイヒールで出勤する。仕事で結果を出すのは当然で、その身だしなみが会社に対する最低限のマナーである。そしてキャリアを重ね、ハイブランドに手が届く収入を得る。バッグも車も家も、欲しいものはすべて自分の収入で手に入れる。
『それが本当の意味で自立した女性の普通よ』
その言葉の通り、母はハイブランドで身を固め、高級車も湾岸エリアにそびえたつタワマンの一室も自分だけの稼ぎで購入した。無論、一人娘たる七瀬の学費もだ。
学費どころか、七瀬が社会人になってからも生活費はすべて母が負担してくれていた。
大学卒業後、派遣社員として働いていた七瀬の収入は母から言わせれば「大した金額ではない」そうで、生活費を渡そうとしたら受け取りを拒否された。そのお金があるなら、キャリアアップに使うように言われ、受け取ってもらったことは一度もない。
母が家にお金を入れなくていいと言っている。それは喜ぶべきことかもしれない。
だが、自分の勤労を否定された気になってしまう。
学生時代から一人暮らしをして奨学金やバイト代で生活費をやりくりしていた子もいれば、実家暮らしでも働いていれば決まった額を家に入れている。
にもかかわらず、そうさせてくれないのは母の中で七瀬がいつまでも子どもだと思われている気がしてしまう。二十代も半ばになり、母が七瀬を産んだ年齢になっても、母からすれば七瀬は子どものままだ。
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