おじいちゃんの古民家風呉服店

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「私も騙されたのよ。うちのお父さんも一緒になってさ『お義父さんと僕はもう食べたから、それお母さんの分』とか言ってさ。こっちは『焼き芋? ラッキー』ってなっているのに、食べられなかったあの悔しさ!」 「結局、康くんが焼き芋を買いに走った」  叔母がこぶしを握り、祖父がその後の展開をぼそりとカミングアウトする。  康くんとは叔母の夫だ。大らかな叔父が、叔母の剣幕に負けて慌てて焼き芋を買いに行く姿が浮かび、七瀬は思わず吹き出してしまう。  叔母夫婦と祖父の暮らしは、うまくいっているようだ。 「これ、どうなってるの?」  しげしげと焼き芋を見つめる。焼き芋を包んでいた新聞紙は数日前の日付で、さすがにこれは本物だ。見覚えのあるニュースが載っている。 「粘土で作るんだって」 「粘土……」  納戸とはいえ、七瀬の知っている粘土とは違う。七瀬が知っているのは保育園の粘土遊びで使った粘土と、小学校の工作で使った紙粘土だ。紙粘土に絵の具で色を塗った覚えはあるが、祖父の焼き芋は絵の具で色を塗ったようには見えない。 「樹脂粘土。それにカラー粘土だな」 「樹脂粘土?」  祖父はお茶を飲んで唇を湿らせると、口を開く。 「樹脂粘土は乾燥すると表面が滑らかで、ひび割れしにくい。アクリル絵の具や塗料、カラー粘土を混ぜて色を付ける」 「だから隅々まで色がついてるんだ」  色の濃紺、焼き芋のお尻のところが若干黒くなっているのも本物と同じだ。 「それにオムライスに野菜スティックにって」 「写真」  祖父がテーブルの上を滑らせてきたスマホをキャッチし、写真を見る。 「昔ながらのオムライスだ。トマトソースも色鮮やか。ミニトマトもかわいい」  白い皿の上に載っているのは、チキンライスを薄焼き卵で包んだ昔ながらのオムライスだ。黄色い卵の中央には赤いトマトソースがかけられている。もちろん本物ではない。
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