おじいちゃんの古民家風呉服店

11/44
前へ
/138ページ
次へ
「こっちは野菜スティックだ。大根と人参、キュウリにパプリカ……ヤングコーンも?」 「ちょうどいいシートがあったから、それを押し付けた」 「ヤングコーンの粒を作るのは、年寄りにはしんどいわよ」 「若くても大変だよ」  ヤングコーンの粒を一つずつ作っていったら、目が疲れるだろうし肩もこるだろう。  そのほかにも目玉焼きにりんごにと、祖父の作品は続く。  画面をスクロールさせていくと、食べ物ではない写真が出てくる。 「……これ」  手を止めて見入ったのは建物の写真だ。これも本物ではないのは、テーブルの上に置かれているからだ。テーブルの下に写ったこたつ布団は、祖父宅で見た覚えがある。 「なあに? おじいちゃんと看護師さんのツーショットでもあった?」  あったかなと真顔で首を傾げる祖父の前にスマホを置くと、叔母が首を伸ばしてくる。 「これ、お店だよね」  祖父母が経営していた呉服屋の外観だ。「しをの呉服」と欅の看板もかかっている。 「ああ、これ作ってもらったやつね」 「作ってもらった?」 「ドールハウスとかミニチュアハウス? そういうのを専門的に作っているプロがいるのよ」 「ミニチュアハウス作家だな」  頷きあう祖父と叔母を前に、七瀬は一人取り残されたような気分になる。  祖父が食品サンプル作りを趣味とし、数々の作品を作り上げていることを知らなかった。だが七瀬は東京におり、祖父は仙台にいる。そう頻繁に行き来する距離ではないから、祖父の趣味を知らなかったのは納得がいく。  だがミニチュアハウス作家という職業があることは知らなかった。 周りの人たちが知っていることを、七瀬は知らない。昔からそうだ。  小学生の頃はアニメや漫画の話、中・高ではドラマやSNSでの流行の話題を知らなかった。周りがテレビや漫画を見ている頃、七瀬は塾に習い事にと時間を費やしていた。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加