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「こっちは野菜スティックだ。大根と人参、キュウリにパプリカ……ヤングコーンも?」
「ちょうどいいシートがあったから、それを押し付けた」
「ヤングコーンの粒を作るのは、年寄りにはしんどいわよ」
「若くても大変だよ」
ヤングコーンの粒を一つずつ作っていったら、目が疲れるだろうし肩もこるだろう。
そのほかにも目玉焼きにりんごにと、祖父の作品は続く。
画面をスクロールさせていくと、食べ物ではない写真が出てくる。
「……これ」
手を止めて見入ったのは建物の写真だ。これも本物ではないのは、テーブルの上に置かれているからだ。テーブルの下に写ったこたつ布団は、祖父宅で見た覚えがある。
「なあに? おじいちゃんと看護師さんのツーショットでもあった?」
あったかなと真顔で首を傾げる祖父の前にスマホを置くと、叔母が首を伸ばしてくる。
「これ、お店だよね」
祖父母が経営していた呉服屋の外観だ。「しをの呉服」と欅の看板もかかっている。
「ああ、これ作ってもらったやつね」
「作ってもらった?」
「ドールハウスとかミニチュアハウス? そういうのを専門的に作っているプロがいるのよ」
「ミニチュアハウス作家だな」
頷きあう祖父と叔母を前に、七瀬は一人取り残されたような気分になる。
祖父が食品サンプル作りを趣味とし、数々の作品を作り上げていることを知らなかった。だが七瀬は東京におり、祖父は仙台にいる。そう頻繁に行き来する距離ではないから、祖父の趣味を知らなかったのは納得がいく。
だがミニチュアハウス作家という職業があることは知らなかった。
周りの人たちが知っていることを、七瀬は知らない。昔からそうだ。
小学生の頃はアニメや漫画の話、中・高ではドラマやSNSでの流行の話題を知らなかった。周りがテレビや漫画を見ている頃、七瀬は塾に習い事にと時間を費やしていた。
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