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母はアニメや漫画、ドラマをくだらないと口にしていた。みんなが見ているから見ないと話ができないと言っても、見ないと話ができないのがおかしいと一点張りだ。みんなの話についていけなくて仲間外れにされると訴えれば、学校にクレーム(母いわく意見)を言いに行った。
それが子どもの口から親へと広まり「七瀬ちゃんのお母さんはヤバい」と、友達だった子たちは徐々に七瀬と距離を取るようになった。中学受験に失敗し、進んだ公立中学では小学校からの顔ぶれが多く、ヤバいお母さんの話は新しいコミュニティの中でもすぐに広まった。それでも中学高校ともなれば、子ども同士の付き合いに親が出てくることも少なくなり、友達として付き合える子も増えた。
知らなくても付き合ってくれる子もいるし、知らないなら話にならないと拒絶するか見下す人もいる。それを七瀬は身をもって学んだ。
「それだけで生活しているわけでもないからな」
「東京は家賃も高いしね。これ、外観だけじゃなくて室内も見れるのよ」
叔母がスマホに指を伸ばし画面をスライドさせると、上から撮ったらしく室内の写真が出てくる。
呉服屋は二階建てで、表が店舗で裏が自宅だった。自宅側のスペースに小さな蔵と離れがある。かつて離れでは曾祖母亡き後の曽祖父が、悠々自適に隠居生活を送っていたそうだ。上から見ると蔵と離れもきちんとあるが――
「……蔵と離れは途中?」
「制作途上。母屋の方は大体できている」
祖父の言葉通り、母屋の方は完成しているようだ。呉服店の方は畳敷きの上に反物が広げてあり、沓脱も七瀬の記憶のままだ。母屋の居間にはこたつ、その上にはミカンが入った籠が置いてある。
「座布団の位置がさ、お父さんとお母さんのいつもの席なのよ。もう、なんかねえ……」
叔母がそっと目尻を拭う。
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