アメちゃん美容室

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 ハルからミニチュアの相談を受けたことを告げた時、すでに葛西は鈴野美容室のミニチュア作成に取り掛かっていた。七瀬が東京に行っている間、食事だと声をかけてくれる人もいなかったため集中して作っていたらしい。そしてハルの相談を受け、こちらも急遽リフォームというかたちになった。 「それでもさっと作り直しちゃうんですからね」  ミニチュア作りを決めたのはハルだが、これから希来里と店をやっていくなら、希来里の意見も聞きたい。そう思っての相談だった。 「一応、それで生活してますからね」  得意げな顔をする葛西に代わり、七瀬はハルの自宅のインターホンを押す。インターホンからの応答を待つ間に、ガチャリと玄関が開けられる。薄いラベンダー色のシャツに濃い紫色のパンツ姿のハルだ。女傑と称される春だが、桜色の靴下がかわいらしい。 「待ってたよ。上がりな」  由紀が亡くなった直後のような落ち込んだ様子はなく、初めて会ったときの姐さんイメージのハルだ。けれどその心から、娘を亡くした悲しみがなくなったわけではない。 「希来里と羅々もいればよかったんだろうけど。希来里は仕事があるし、羅々はまだ東京だからね」  希来里は勤務先の美容室を辞め、鈴野美容室でハルとともに働くそうだ。祖父が懸念したように相応の築年数を経た鈴野美容室とハルの自宅は、相応の金額――七瀬からすれば大金だが――でしかなかったらしい。急いで売りに出していたらもっと低かっただろうと祖父は睨んでいる。  最初に来た時同様、ハルがお茶を入れてくれ、全員がテーブルを囲んだところで葛西がミニチュアが入った箱をあける。ホールケーキが入った箱と作りは同じだ。 「……ほう。これが新しい鈴野美容室(うち)かい」  出てきたのはリニューアルオープン後の鈴野美容室だ。カット台もパーマ用ヘアスチーマーも、ハルが高齢者のたまり場と称するL字型に配置されたソファも今と変わらない。
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