おじいちゃんの古民家風呉服店

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 母は空き家になったら解体して二束三文でも売り、祖父の介護資金とすべきだと考えた。その話が寝耳に水だった叔母は母にメールで反論するもなしのつぶてで、妥協案として片付けることだけは同意した。売るとしても土地建物ともに所有者は祖父だ。いくら母が強行しても、祖父の同意なく売ることはできない。それに母は海外居住中だ。簡単に帰ってくることは難しい。  それは叔母から聞いた情報であり、母からはいまだに何の音沙汰もない。それが何となく不穏な気がして、北に進むにつれて気が重くなっていく。  大宮を出れば、次は仙台だ。その間に車窓から眺めるのどかな風景に心癒されるはずなのに気が重いのは、母がその風景を嫌いだからかもしれない。  久しぶりに降り立った仙台の駅はのんびりとしていた。それもそのはずで、七瀬がいつも仙台駅を利用するのはお盆と年末年始の帰省ラッシュのピークで人が多い時だ。それもここ数年は働き始めたこともあり、足が遠のいていた。  それでも変わらずにあるのが仙台駅だ。  改札を抜け、エスカレーターで二階へ降りると見えてくるのは大きなステンドグラスだ。七夕の吹き流しが描かれたステンドグラスは昔から変わらず、七瀬の目を引き付ける。東京にいてもなかなかこの大きさのステンドグラスを見ることはない。ステンドグラスの前は待ち合わせスポットでもあり、今日もスマホ片手に待ち合わせをしている人たちの姿がある。その中に叔母の姿を見つけると、叔母も七瀬に気づいたようで小さく手を振る。  叔母はダウンにマフラー、ジーンズに足元は雪道用のちょっと重そうなシューズを履いている。三月にはなったがまだ寒い。おまけに新幹線から見た空は、灰色の雲が重そうだった。これから家の片付けに向かうとなれば、その格好が正解だ。
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