おじいちゃんの古民家風呉服店

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 きっと母なら計画通り、祖父宅の片付けに向かう。たとえ雪が降って指先の感覚がなくなってきたとしても、今日進める予定のところまで片づけを進めるはずだ。  だが叔母は臨機応変に対応する。母がいたら、面倒な事を後回しにしているだけだと怒るかもしれない。  だが慣れない寒さで身をこわばらせて作業をし、怪我をするよりずっといい。七瀬は寒さに慣れていないし、叔母も五十代だ。腰を冷やして痛めるかもしれない。夏は熱中症に気をつけなければならないが、冬は寒さと怪我に気をつけねばならないようだ。  叔母は車に乗り込むと目的地をスーパーに変え、必要な食材を買い込んで自宅へと車を走らせる。その間に雨はみぞれへと変わっていき、灰色だった空はより濃くなっていた。そして仙台に到着した時よりも寒くなったような気がする。 「寒っ。片付けキャンセルにしてよかったー。おじいちゃんが帰ってくる前に、部屋温かくしておけるわ」 「おじいちゃん、どこか行ってるの?」  車を降りて家に入ると、叔母は早速ヒーターをつける。家の中は誰もいないようで、しんと静まり返っている。 「公民館。高齢者が集まっておしゃべりしたり、スマホの操作を学んだりしてるのよ。一日中家にこもっていても不健康でしょ。私もパート行くと、一人だし。意外とね、お友達もできたらしいわよ」 「そうなんだ」  一人暮らしをしていた家を離れ、次女夫婦の元へ身を寄せた祖父だ。公民館で友達ができたのはいいことだし、叔母も安堵したことだろう。 「そう。おじいちゃん、手先が器用だからね。本人は言わないけど、モテるらしいわよ」 「モテる!? おじいちゃん、いくつだっけ?」 「今年七十七。まだ若手よ」 「若手って……」 「若手よ。女性の方が長生きだし、口が達者だし。お姉さま方からすれば口下手だけど、手先が器用でかわいい弟。お嬢さま方からすれば寡黙で頼りがいのあるお兄さん」
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