おじいちゃんの古民家風呉服店

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 年上からは口下手でかわいい、年下からは寡黙で頼りがいがあると評される。どちらも好印象であることに違いない。 「それで生活にハリがでるならいいよね」 「慣れ親しんだ地域を離れると家に引きこもりがちになるからね。それを考えたらお茶飲みしたり、モノづくりしたりって楽しんでるんだから安心よね」 「モノづくり?」  聞きなれない言葉に、食料品を冷蔵庫に仕舞っていた手を止めて叔母を見る。叔母はヤカンを火にかけながら頷き、 「手先が器用だからね。いろいろ作ってみせると喜ばれるのよ」 「おじいちゃん、何か作ったりしてたっけ?」  祖父はかつて祖母と共に呉服屋を営んでいた。二年ほど前に呉服屋の跡取り娘だった祖母が亡くなり、呉服屋を畳んだ。  七瀬の記憶にある祖父は着物を売っているおじいちゃんであり、趣味に勤しむ姿を見た覚えはない。  ――もっとも、おじいちゃんの趣味を知らないんだけど。 「七十の手習いだって。食品サンプルっていうの? 昔ながらの喫茶店で、ナポリタンのパスタを巻き付けたフォークが宙に浮いてるサンプルがあるじゃない」 「前にテレビで天ぷら作るの見たよ。外国人観光客に食品サンプル作りの体験が人気ーって……え? それをおじいちゃんが?」 「はい。それをあなたのおじいちゃんが。そろそろ帰ってくるから、作品見せてもらったら?」 「作品?」 「部屋に飾ってあるわよ。病院でも手慰みに作っててね、子どもたちに大人気」 「……私のおじいちゃんが?」 「間違いなく七瀬のおじいちゃんが。私もびっくりしたわよ。『えー、お父さんが!?』って」 「間違いなく叔母さんのお父さんが」 「そうよ。間違いなく、私の父親が」  そんな話をしていると、玄関の方からガチャガチャと鍵を開ける音がする。噂をすれば影で、祖父が帰宅したようだ。
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