おじいちゃんの古民家風呉服店

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 食材を仕舞い、お茶の用意をして居間へ行くと、ちょうど手洗いを終えて荷物を部屋に置いてきたらしい祖父が紙袋片手に居間に入ってくる。 「おお、七瀬か」 「うん。なかなか来れなくてごめんね」  祖父は首を振ると、よいしょと言ってソファとテーブルの間に腰を下ろす。 「床暖、さっき入れたばかりだからまだお尻が冷たいかもよ」  うんと叔母に返事をしながら、祖父は紙袋をごそごそと漁る。 「七瀬、焼き芋好きか?」 「うん」  しばらく食べていないが、熱いと言いながら食べるほくほくの焼き芋は好きだ。小学生の頃はトレーナーの裾を伸ばして焼き芋を持っていた。トレーナーの袖を伸ばして母に怒られたのも、今となっては遠い思い出だ。 「ほれ」 「わ、ありがと……ん?」  祖父が紙袋から取り出したのは新聞紙に包まれた焼き芋のようだ。買ってしばらく時間が経ったのか、熱くない。そして紙袋の奥から取り出したのに、全く崩れている様子がない。  七瀬が知っている焼き芋とは違う気がして、テーブルの上に置いて新聞紙をめくっていく。出てきたのは半分に割れた焼き芋だ。黄金色に輝く断面は美味しそうで、焼けた皮のはがれ具合も皮についたサツマイモといい、たった今割ったかのようだ。だが湯気が出ていないし、温かくもなければ冷たくもない。  どういうことかと断面を見比べていると、「んふふ」と笑いながら叔母がやってくる。祖父と七瀬の間、お誕生日席に座ると急須にお湯を注ぎながら、 「お父さん、久しぶりに会った孫をからかうんじゃないの」  からかうという言葉に反応して祖父を見れば、祖父は手を伸ばして指先で芋を押す。焼き芋ならほろほろと崩れるはずなのに、崩れることはない。 「え、なんで?」 「今日の作品?」 「サンプルとして持ち歩いてる」  祖父の答えに、叔母はお腹から出すように「はーっ」と深いため息をつく。
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