拾われて赦されて

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夫の口座から100万円が消えていた。 私は奥村静江67歳。 23歳の時に夫と結婚して、2人の息子を産み育てた。 二人とも遠方に家族とともに住んでいて、よほどのことじゃないと帰ってこない。 ここ10年、ほとんど夫と二人暮しのようなものだ。 夫との財布は別々。自分でも仕事をしつつ、家事や育児代として毎月生活費をもらっていた。 そんなとき、たまたま夫の通帳を見てしまった。 主人の部屋を掃除していたとき、引き出しの中に丁寧にしまい込んであったそれ。 大して興味はなかったし、ふだんの自分であれば他人の経済状況を盗み見ることはしなかっただろう。 けれど昨日の夕飯どきの一件が心に残り、つい開いてしまったのだ。 たいした話ではない。 「誕生日に、2万円の服を買おうと思ってる」と話したら、夫から「高すぎる」と一蹴されただけだ。 自分のお金で買おうとしているのに、なぜ口を挟まれなくてはならないのか。 そう言う自分は、月にどのくらいお金を使っているのか。 次から次へモヤモヤと葛藤が生まれ、思わず中身を見てしまった。 目を疑った。 なんと、つい数日前に100万円が一気に引き出されていたのだ。 どういうこと? 夫はそんな大金を使う人間ではない。 趣味といえば毎日ネットでニュース記事を読むことと、ケーブルテレビでスポーツ中継を観ることくらいだ。 どこに100万円も使うあてがあるのか。 かといって通帳を盗み見たことを告白するわけにもいかず、夫に尋ねることが出来ないままその日は終わった。 それからも定期的に5万、10万、20万と決して少なくは無いお金が引き出されていた。 おかしい。一体どういうことなんだろう。
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