両親とオレ

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 うちは父、母、おれの三人家族である。三人というのはなかなか良い数字だ。誰か二人の仲がこじれても、残る一人が緩衝材になってくれる。  一方で、あまりにもしっくり行き過ぎるがゆえの息苦しさのようなものを、最近のおれは感じるようになっていた。OBだの研究だのと言ってみたものの、遠方の大学を志望した一番の理由はそれだったのかもしれない。  この『家族』という安定した関係性の中から広びろとした世界へ。飛び出してみたいと思ったのだ。 『今度の土曜日、デートしませんか?』 『よろこんで〜(ハート)』  という頭の沸いたやりとりが、家族のグループトークに展開された。  母はともかく、父は個別トークに送っていたつもりでいたのだろう。しばらくして(おのれ)の失敗に気づいたらしく、追加のメッセージが来た。 『隼人はどうする?』  おれ? おれは見たくもない両親のいちゃつきを見せられて寒イボが立ってるよ! とは言わないが、とりあえず放課後まで放っておくことにした。下校後も友だちとフードコートで勉強したり動画見たり。そろそろ父が悶死するな……という頃合いで返信する。 『パスで。共テ模試が近いし』 『承知しました』  速攻で返事が来た。なぜかビジネスライクな文面だった。 『勉強ガンバレ! おみやげ買ってくるからね(ハート)』  母の返信も続く。つうか二人ともリプが早えよ。仕事しろ。  共通テストの結果はまずまずだった。もう少し頑張れば志望校に手が届く、そんな距離感。  結果を報告すると、父は「そうか、良かったな」とうなずいた。母はまだ「北海道かぁ……」とぼやいている。 「隼人、北海道に行っちゃっていいの? こっちに彼女とかいないの?」 「いるわけないだろ。男子校だぞ」  そう。何を血迷ったのか、おれは中高一貫の男子校に通っている。最初の一、二年は男だけでなんとか楽しくやっていたが、六年目の今となっては男子校の良さは知り尽くし、女子のいない現実に苦しむばかりだ。 「男子校なのは関係なくない?」  母が図星を突く。息子の目を盗んでデートしてるような連中は黙っててくれ。おれだって、女の子とカラオケとかゲーセンに行って、海辺で手持ち花火からの告白したかったわ……。  大学ではぜひとも彼女を作り、雪まつりなどの各種イベントを楽しみたい。そのためにも、必ず合格せねばならないのだ。おれは決意を新たにした。
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