両親とオレ

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 飛行機で戻ってきたおれを、両親は空港まで迎えに来た。後部座席に乗り込むと、運転席の父が早速たずねてくる。 「どうだった?」 「時計台見てラーメン食った」  おれはわざと返事をはぐらかした。  ぶっちゃけ、入学試験にはまあまあの手応えがあった。苦手な英語が割とよくできたし、得意な物理はネットの解答速報を見る限りほぼ満点だ。共通テストの結果と合わせて、かなりいい線をいっていると思う。  ただ受験当日、大学の正門前で、おれは慣れない雪道に滑って転んだ。いつもなら笑い飛ばしてしまうような迷信だけど、今という今、気にならないといったら嘘になる。だがそんな幼稚なこと、言えるわけがない。  くたびれたふりをして黙りこんでいると、助手席の母が笑顔で振り返った。 「母さんたちは昨日カツ丼を食べたよ。隼人の合格を願って!」 「おれ抜きでかよ……」  それって効果あんの? とつぶやく。けれどそんなささいな願掛けが、しょうもない迷信を打ち消してくれるような気がした。おれは席に座りなおした。 「試験、結構いい感じにできた。帰りにスープカレーも食べようと思ったけど、無理だった。店が混んでて」 「またいつでも食べられるさ」  父が言う。 「合格したら、向こうに住むことになるんだもんな」  数週間後、運命の日がきた。  おれは部屋にこもり、午前九時ジャストにスマホの専用サイトにアクセスした。大きく深呼吸して『合否照会』のボタンを押す。  居間に出て行くと、父と母がダイニングに座っていた。父は本を、母はスマホをそれぞれ持っていたが、おれの気配にさっと振り返る。二人の期待感がひしひしと伝わってきた。 「えーと、合格した」  さり気なさをよそおって言ったものの、頭の中は脳みそがグラグラ煮えて、地に足がついていないような気がしていた。 「そうか……! やったな。おめでとう」  父はふーっと息を吐き、本を閉じた。それから再度本を開いて、また閉じた。母はパッと顔を輝かせたかと思うと、口もとを歪めた。 「隼人……ほんとに北海道に行っちゃうのぉー?」  ぼろぼろ涙をこぼして泣きはじめる。 「ちょっ、いまさら?」  慌てたおれは助けを求めて父を見た。最近よく似てきたと言われる顔が、おれに負けず劣らずの困り顔で見返してくる。  戸惑う男二人に見守られ、母はしばらく号泣していた。だがその晩にはお赤飯が出た。準備してくれていたのか、と思った。
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