両親とオレ

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 うちの両親は社内結婚である。支社の経理部にいた父が研修のため本社に来て、設計部の母と出会ったらしい。父が本社異動になったタイミングで二人は結婚し、おれが生まれた。  部署は違えど同じ会社なので、ノー残業デーの水曜日は揃って帰ってくることが多い。三人で食卓を囲みながら、おれはおもむろに話を切り出した。 「大学入試のことなんだけど……」  志望校を伝えると、予想通り母が顔色を変えた。 「北海道? そんなの聞いてない!」 「言うの初めてだから。でも、前から良いなーと思ってて……」 「前からっていつよ。突然過ぎる。だいたい、なんで北海道の大学なの?」  いわゆるリケジョの母は、ふだん考え方が合理的だ。機械系に強く、整理整頓が得意である。だがおれのこととなると、理性より感情が勝るらしい。いまだに三歳児みたいに思われている気がする。もう十八歳なんですけど。 「この前OBの先輩が来てて、すごく良さそうだったんだよ。興味ある研究もやってるみたいだし、それで」 「研究? それってどんなこと? 関東(こっち)の大学じゃできないことなの?」 「いや、それはわからないけど……」  矢継ぎ早に質問を投げかけられて、おれはしどろもどろになった。昔から、母に感情的に詰められるのが苦手なのだ。そこに援軍が来た。 「(はや)()が行きたいなら、良いんじゃないか」 「!」  おれと母は振り返った。それまで静かに納豆をかき混ぜていた父が、顔を上げていた。  ふだんの父は、よくも悪くも母任せの男だ。母の買った服を身につけ、母こだわりの激辛スパイシーカレーを涙しながら食す。そんな父が、静かに言った。 「隼人だってもう成人なんだし、将来のことは自分で考えるべきだろう。任せてやればいいじゃないか」  母はまだ何か言いたそうな顔をしていたが、「まあ、そうだけど」と拗ねた口調で引き下がった。 「父さんありがとう……! あの、生活費とかはバイトして稼ぐようにするから」 「学生は勉強に専念しなさい。学費は積み立ててあるんだから、気にしなくていい」  父の言葉に、胸が熱くなった。こんなに父を頼もしく思ったのは……いつのことだかすぐには思い出せない。だが、今日のことはずっと覚えておこう。おれは心に刻んだ。
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