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5義父母たち
「まったく。忌々しいわいっ。こんなはずではなかったのに」
大きな丸い腹をゆすりながら怒鳴り散らかすのはモンターギュ・ホーガンである。
没落寸前の三流貴族だったモンターギュだが、ウィリアムの後見人として認められてからは宮廷から多額の養育費が支払われるようになった。だがそれも成人するまでの間なのだ。もうすぐウィリアムは成人してしまう。そうすれば資金はもう手に入らなくなる。その前になんとかして養子縁組を成立させようとしていた。
出来れば子供のうちに養子縁組を結ばせてしまうつもりだったが、遺言書の中にウィリアムが成人時に彼が望んだ時のみ縁組は成立となるとあり思惑は失敗に終わった。なぜこんな回りくどい事をしたのかは謎だ。
「ウィリアムを上手いこと丸め込んでしまえば成人と同時に遺産はすべてこっちのモノだと思っていたのに」
――そう思い、早い段階から義父さん義母さんと呼ばせていたのに!何故思い通りにいかないのだ!
「あの執事のせいよ! 世間知らずのウィリアムだけならこっちの思い通りになるはずだったのに」
妻であるサーシャは派手な色の口紅を塗りながら顔を歪める。
「わかっておる。グレンは邪魔だ。しかし暗殺者を送っても誰一人帰ってこないのだ。きっとわしらが渡す金額より高い金を払って追い払ってるんだ」
「そうよね。でも執事ごときがそんな大金動かせるのかしら?」
「そんな事わしが知るはずないだろう。きっとウィリアムが領地の金から支払ってるんだろう」
「何不自由なく育ててやったのに。せっかく代筆を頼んで遺言書も偽造したというのに。すぐに見破られちゃうし!」
「馬鹿! 声がデカいぞ!誰かに知られたらどうするのだ!」
「何よ。誰も聞いちゃいないわよ。仮に使用人が聞いてたとしても、平民が私達に歯向かえるはずないじゃないの」
ほほほ。と傲慢な笑いを浮かべるサーシャは着飾った自分の姿を鏡の前でチェックしている。
「もっと大きな宝石が欲しいわ。私がもうちょっと若ければあんな坊や手玉に取ってやるのに」
「……お前、仮にも養子にしようとする子に手を出すつもりなのか?」
呆れたようにモンターギュが振り向く。
「ま、まさか。例えばよ。私の美しさなら振り向くでしょ?」
自慢げにサーシャは微笑む。自分が美しいと思い込んでいるようだ。
「ふむ。色仕掛けか。ウィリアムももうそんな年齢になったか……」
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