6王都の使い

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「おや。これは皆さまお揃いということでしょうか?」  王都からの使いの騎士はきちんとした正装で丁寧にお辞儀をするとウィリアムに沢山の書類を手渡してきた。 「こちらが遺言書と目録でございます。ここに書かれております王室管理の遺産すべてと契約が本日付で実行されました。なお王様よりウィリアム殿には本日付けで辺境伯の地位を与えるとの思し召しでございます」 「僕が辺境伯ですか? でもこの地は……」 「そ、そうだぞ! ここはわしの領地だ! ウィリアムはただの管理人だぞ!」  義父が大声で喚く。  王都からの使者はクスっと笑った後にグレンを見る。 「グレン殿の報告どおり、貴殿はおろかですな。すでにこの地はウィリアム殿の領地となっております」 「ええ?」僕は目を丸くする。グレンがこっそりと動いてくれていたのか? 「なんだと? グレン! お前何をしたっ?」  義父の頭から湯気が立っている。血圧が上がりすぎて倒れないだろうか。 「まず、従者バレット氏によるウィリアム殿殺害容疑、次にメイドに扮した暗殺者に誘惑させ淫行に及ぼうとした罪、領地財務の二重帳簿に横領、貴族への賄賂、その他もろもろ。貴殿の罪は証拠と共に提出され、本日付で貴殿の領土は没収され、ウィリアム殿の名義となっております」 「なっ? でっちあげだ! そんな執事の世迷い言を信じるのか!」  義父は顔を真っ赤にしていよいよ倒れそうだ。 「はい。グレンはウィリアム殿の祖父、王様の覚えよろしき、偉大なる宮廷魔導士の筆頭であったお方の弟子でございます。汚職にまみれた貴殿とグレン。どちらの言葉を王が信じるとお思いですか?」 「えっ? ではグレンは最初から全部わかってて僕の傍にいたのか?」 「はい。すべては遺言書の為とはいえ、黙っており申し訳ございません」 「……」  その後の幕引きはあざやかであった。  いつの間にか王都から派遣された衛兵があたりを囲い、義父たちは連行されていった。 「怒ってられますか?」   グレンが気まずそうに聞く。 「あたりまえだ! なぜ何も言ってくれなかったんだ?」 「先代との……貴方のお爺様との約束でしたので」 「そんなのはわかっている。わかっているけれど。……もう僕の傍にはいてくれないのか?」 「え?! それはどういう意味でしょう?」 「遺言も実行された。グレンがここにいる必要はなくなってしまったのだろう? 僕の傍から離れてしまうのか?」  ウィリアムの大きな瞳から涙がポロポロとこぼれ落ちる。 「どこにも行かないでくれ。僕はお前が好きなんだ……」 「う……ウィリアム様? ……ほんとに? 今の好きって」  グレンが驚いた様子でこちらを見つめていた。 「ああ。好きだ。もう自分の気持ちを隠すのはやめた。僕はグレンが好きだ」
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