番外編:ある日のカイル

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「まあ、僕も最初は驚いたよ。ここの領主のウィリアム様は本当に人徳があるね。自分の屋敷の一部を教室に開放するだなんて」 「ええ。最高の領主様っすよ」 「ははは。いいね。領民に好かれるのは良い領主の証だ」 「俺はここから出たことがないんです。外の世界を見てみたい。そのためにはいろいろと勉強しないといけないことがあるって。カイルならそれができるってウィリアム様に言ってもらえて」  リャナンは目を細めて俺の言いたいことをずっと聞いてくれていた。 「そうか。じゃあ今度僕と王都に行ってみない?」 「え? 王都に?」 「ああ。食べ歩きをしてみないか?」 「わわ! したい!」 「じゃあまずは店のメニューを読めるようになるまで頑張ろうか?」 「うん! 俺頑張る!」 「……可愛いな」 「え? リャナンさん?」 「名前を教えてくれる?」 「カイル。ごめん。俺名乗ってなかったね。えへへ」 「ふふ。笑顔がすてきだね」 「ほへ……」 「ふふふ。カイル。君が僕の一番最初の生徒だよ」 「はっはい! よろしくお願いします!」 「元気があっていい。本当はね。ずっと君と話したいって思ってたんだ」 「へ? 俺とですか?」 「うん。屋敷の中を駆け回ってるのを何度も見た。手際よく片付けてる姿を見るたびに真面目で可愛いなって思ってたんだ」 「か、かわ……俺がですか?」 「うん。だからこうして話せてうれしいよ」 「そんな、俺の方こそ。綺麗な瞳だなあって。晴れた日の空みたいに曇りのない青空みたいで。俺、晴れた日の空って好きで。心が洗われるようで。リャナンさんの瞳って宝石みたいで。えっと、その」  熱弁しすぎたのかリャナンが赤い顔をしていた。 (あれ? ……そっか。これじゃあリャナンの瞳が好きだって告白してるみたいじゃんか!) 「ありがと。そんなに気に入ってくれて」 「えへへへ」  リャナンはうつむいたまま、ぽつりと話し出した。 「僕はね、異国の血が混じってるらしくって肌の色が皆と違うんだよ。褐色の肌で蔑まれたこともあるし差別されたこともあるんだ」 「そんなこと! 肌の色ぐらいでおかしいよ!」 「……そうだね。僕もそう思う。でもそんな人ばかりじゃなくてさ」 「でも、ウィリアム様は違うよ。人種も性別も魔物だって皆生きてる。差別の対象にしてはいけないって言ってくれたんだ。俺もそう思ってる」 「魔物も? 仮にわたしが魔物でもってこと?」 「そうだよ」 「信じられない」 「どうして? だって……」  言いかけてやめた。ここで俺が魔物だって知ってるのは紅蓮様とウィリアム様だけだ。 「ふっ。わかったよ。ありがとう。僕はやっぱりここに来てよかったと思う。本当はね。ここには(つがい)を探しに来たんだ」  ふふふ。と笑うとリャナンは片目をつぶった。 「(つがい)? ってなに?」 「うん。それも一緒に勉強しようね」  一瞬、リャナンの後ろに黒い尻尾が見えた気がした。 「あれ?」 (もしかして?……)  リャナンが俺の腰に手を回した。ちょっと驚いたけどまあいいか。だってすごく良いにおいがするんだもの。俺はちょっとドキドキしながら紅蓮様とウィリアム様を思い出した。 (ひょっとして俺も……見つけちゃったかもです)  カイルは何か素敵な事が起こりそうな予感でいっぱいになった。
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