34人が本棚に入れています
本棚に追加
2害獣駆除のカイル
コンコンとドアのノック音が聞こえると扉が開いた。
「ウィリアム様、面倒なお客が……旦那様が来ますが客間の掃除はいつも通りでいいんすかね~?」
「こら。僕はまだ入っていいと声をかけてないぞ」
「あっそうでした。すみません。つい。へへへ」
人懐っこそうな顔で部屋に入ってきたのは下働きのカイルだった。黒髪のくせ毛の青年でワンコみたいにじゃれるように僕の周りにまとわりつく。
あまりにも多い仕事量にグレンが倒れるんじゃないかと心配で雑用係に雇った人員だった。カイルは仕事も速いし気さくでいい奴だが、礼儀作法には疎かった。ここは都会とは離れているし村育ちなんだからその点は仕方がないのだろう。
「僕の前ではそれでもいいが、義父達の前では気を付けてくれ。あの人たちが難癖をつけ、お前に何か罰を与えないとも限らないから」
「はい。わかっております!」
「掃除はいつもどおりでいいよ。すまないね。メイドでもないのに」
「そんな謝らないで下さいよ。俺は衣食住があって仕事ができるだけで嬉しいんっすよ」
「もう少し余裕が出来たらカイルにもいろいろ教えてあげたいよ。君は物覚えも速いしきっと今後の役に立つと思うから。本当はね、ここに小さい学校を作りたいんだ」
僕の言葉にカイルが目を見開いた。
「学校を? さすがっす。ウィリアム様は本当に俺らの事を考えてくれてるんですね? 俺、感激してます!」
カイルのうるうるの瞳に見上げられて僕は苦笑する。今にも尻尾を振りそうな様子じゃないか。かわいいヤツだなあ。ん? 幻覚か? 今一瞬、尻尾が見えたような?
「ふふ。ありがとう。でも私はまだまだできないことの方が多いんだ。これからもっと頑張るからね」
「わかりました。俺、応援してます。でも無理しないでください!」
「ありがとう」
カイルのような青年が読み書きや算術が出来るようにしてあげたい。もっとこの領地に住む領民たちを豊かにしてやりたい。
「へへへ」
「そうだ、この間の怪我はもうよいのか? お前は傷の治りは早いが無茶ばかりするから心配だよ。料理長に言って滋養にいいはちみつをもらっておいで」
「いいんですか? ひゃっほ〜い! 俺、はちみつ大好きっす」
カイルは狩猟の腕もよく、害獣駆除もかってくれていた。
「そりゃよかった。お前がいてくれるから領民は害獣に襲われることもないし、安心して眠れる。感謝しているよ」
頼もしい。彼のような人材がもっと増えてくれたらこの地も豊かで暮らしやすくなるだろう。そう思うと口元が緩む。そんな僕にカイルが喜ぶ。
「ウィリアム様笑顔は俺の癒しっすよ~」
両手を広げて抱きつこうとするカイルをいつの間にか部屋に入ってきたグレンが引き離した。
「まったく、カイルは躾けなおさないといけませんね。扉が開けっぱなしでしたよ」
「へへへ。どうもすみません~」
「ふふ。じゃあ僕は仕事の続きをするね」
グレンとカイルが部屋から出て行き僕は手元にある書類に目を通す。義父に渡す領地経営の報告書だ。少しづつだが順調に数字は上がってる。
(さてこれを見て義父が何を言い出すだろうか。また無理難題をふっかけられなければいいのだが……)
最初のコメントを投稿しよう!