4過去の回想

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4過去の回想

 義父は年に数回この領地にやってきては同じ内容を僕に突き付けてくる。僕の母は元々はどこかの大貴族の堕としだねだったようだ。だが僕が幼い頃に両親は事故に会い、僕だけが生き残ったらしい。それを親戚である今の義父が引き取ったのだ。  物心つくまでは自分は愛されてると思い込んでいた。実際、何不自由なく暮らしていたし酷いことをされたこともなかった。  そうあの日が来るまでは。それは十歳の誕生日に起こった。  僕の誕生日だということで屋敷ではパーティーが開かれていた。  普段よりも人の出入りも多く、そのどさくさに紛れて僕は誘拐されたらしい。  義父は名門貴族の出だったらしく裕福な暮らしをしていたので僕を攫った賊は身代金を要求しようとした。実際には財政難で裕福ではなかったのだが見栄を張っていたようだ。  幸運にもすぐに王宮の近衛兵に見つかり、僕は屋敷に連れ戻された。  犯人達は逃亡した後で捕まらなかったが、王宮からは助成金が出て財政難は去った。  だが助成金を受け取る代わりに財政を立て直すために何人かの使用人を引き入れた事を知る。その中の一人がグレンだった。 「……なんて悪運が強いガキなんだ」  ぽつりとつぶやいた義父の言葉を僕は聞き逃さなかった。  そして僕は義父に引き取られた詳細を知る。  母方の祖父が莫大な財産を僕に遺しているというのだ。遺言書とその遺産は厳重に王室が管理しているらしい。僕の母に何かがあった時はその子供に受け継がれるという内容で。  義父の元には毎年養育費として多額の費用が渡されていた。  そして僕が十八歳を迎えた時に『後継者』としてその遺産が僕に引き継がれるのだと。そのために義父は僕を引き取り育てていたのだ。  途方もない内容に唖然とした。  僕がすべてを知ってから義父達の態度は変わった。 「ここまで大事に育ててやったわたしたちの為に遺産を譲渡してもらえないだろうかね?」 「そうよ。愛情を込めて育ててたでしょ? 全部じゃなくてもいいのよ。一部だけでも」 「リアム、この兄のために一肌脱いでもらえないだろうか?」  全部がまやかしだったのだ! 本当に愛されたのではなかった。  最初こそ、それでも愛されていたのではと思う気持ちがあったが、疑いは晴れるどころか日に日に期待は裏切られていった。
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