2-7

1/1
前へ
/91ページ
次へ

2-7

 これから講義が始まる。司会者のアナウンスが流れたことで、会場内が静かになった。 「……この時間を担当いたします、営業企画部、部長代理よりご挨拶申し上げます」  紹介を受けて、壁の方で待機していた男性が壇上にあがった。裕理君だ。とても爽やかで優しそうだ。そして、マイク越しに、イメージどおりの爽やかな声が響いた。 「皆さん、こんにちは」 「こんにちはーっ」 「……営業企画部、早瀬裕理(はやせゆうり)と申します。皆さんが起きているので安心しました。これでイジらずに講義へ入ることが出来ます。ご協力、ありがとう」  会場内に小さな笑い声が立った。スクリーンに注目するように声を掛けられた。今回のインターンシップに期待するものが、箇条書きで表示されている。そのスライドを表示させながら、裕理君が読み上げた。 「……ここで重要なのが、みなさんへの接し方です。インターン生として受け入れる皆さんのことは、お客様ではなく、社員のように考えています。私達も本気で皆さんに向き合うつもりでいます。本気で取り組んで、成果を上げるといった気持ちで参加してもらいたいと思います。毎回のアンケートや口コミによると、わが社は厳しいフィードバックを行うようです。厳しいというより、はっきり言うだけです。3日間、前のめりで楽しんでください……」  黒崎製菓の概要、プロジェクトの一例などの講義が始まった。すると、リラックスしている会場内が、張り詰めた空気に変わった。裕理君の参加者への指名が多いからだ。 「G列の山本さん。こちらの説明の……どう感じましたか?」 「は、はいっ。私の考えでは……」 「K列、新城さん。こちらは?」 「はい。僕は……」  みんな一生懸命にノートを取っている。しかし間を置かずに次々に指名される。参加者の名前を覚えられている。聞き漏らすことが出来ないほどだ。疲れが広がってきた頃、講義の終了時間が近づいた。会場内からはため息が聞こえた。俺もそうだし、山本さんも同じだ。  するとその時だ。新しいスライドが表示されて、吹き出して笑った。手書きのイラストが登場したからだ。唇を尖らせた表情の男の子が、ソフトクリームを持っている。 (黒崎製菓は、ソフトクリームを出していないのにな?) 「このイラストは、午後からの講義の予告です。この少年はソフトクリームが大好きで、いつも食べています。彼に起きた出来事と、お菓子やレストランのお話をします。その講義は黒崎常務が担当します。今よりも、ずっとリラックスしたものになりますよ」 「ほんとですかー?」 「ええー?」 「黒埼常務が担当すると、帰る人が多くてね。改善しました」 「そんなことないですよねー?」  さっきまで張り詰めていた空気が、すっかり明るくなった。それは裕理君が笑っているからだ。すると今度は黒崎君の方へ向いた。 「C列の黒崎君に質問します。ソフトクリームを食べていて、落としたことはありますか?」 「はい。何度もあります」  彼が真面目に答えたことで、会場内から笑いが起きた。そして、質問と答えを繰り返して、この時間の講義が終了した。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

115人が本棚に入れています
本棚に追加