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控え室から出ると、一斉に視線を浴びた。背を伸ばせと言われたからそうした。視線の先には裕理君が立っていた。こっちを見て眉をひそめている。
(あんな顔を初めて見た……。ごめんなさい……)
再会した途端に迷惑をかけた。あれほど久弥からも言い聞かされていたのに。やっぱり温室育ちなんだと思い知った。何をやっても許されて来たからだ。調子に乗った結果だ。すると、裕理君が声をかけてきた。
「……枝川。二人にしてくれるか」
「はい。僕は戻るからね。早瀬部長代理が話をしたいそうだ。しっかりと聞けよ?」
「はい」
まるで子供扱いだ。通路へ促されて会議室を出た。目の前にいる人は、5年前とは違う空気を纏っている。再会した時もそう思った。裕理君は優しい笑顔を浮かべている。さっきまで険しい顔つきをしていたのに。
(こんな顔をしてないでよ。甘え癖が出てくるから……)
「佐伯君、どうして帰ろうとするんだ?」
「すみませんでした。ここにいると周りの参加者の邪魔になるし、堂々と参加が出来ないからです。せっかくの空気を乱したから……」
「分かっているじゃないか。それでいい。戻りなさい」
「出来ません」
「どうして?」
「こんなこと言っていいのかな……」
「この瞬間だけプライベートでいい。吐いてしまえ」
「同じ大学の子が参加しているんだけど。みんなから責められているんだ。ラインのグループも外されたし……。このまま居てもいいことはないよ」
「そうか……。大学へも行かない選択をするということだぞ?今回のことで中退するのか?」
「それはしないよ!友達はまた出来るし。しばらくは居づらいかもしれないけど……」
「君の学部は先輩後輩の繋がりが強い。今日のことを先輩に話せ。大学生としての目でアドバイスが貰えるだろう。社会人としての俺から言えることは ”ミスをしたら挽回しろ” ということだ」
「取り戻せないよ」
学校ではそうだった。一つ間違えて答えると、すぐに仲間からハジかれる。自分よりも他人に厳しい子が多い。そういう俺も同じだ。
「可能だ。反省して、真面目に取り組むことだ。その態度を、うちのほうは見ている。……平田を知っているだろう?休憩時間に注意してきた社員だ」
「うん……」
「インターンシップ参加のときに、ルール違反をした。相手から許してもらったうえで、最後まで参加した」
「入社してるのに?」
「それぐらいの ”ミス” だ。勤務を始めると分かるようになる。もっと大きなことがある。些細なミスをしたことで、全てが終わったと受け取っている。今までの参加者全体の傾向だ。君たちの年代の考え方の癖だぞ」
「あ……」
(そっか……。こんな事で落ち込む場合じゃないよね。お兄ちゃんはもっと大変だもん。今日は帰ろう。仕切り直ししたから……)
「黒崎君に謝りたいんだ。許してくれるかな……」
「許してもらえたら、参加を続けるんだろう?」
「帰りたい」
「理久、ちゃんと話を聞け」
「友達が……」
「はあ……」
困ったな。そうため息をつかれてしまった。こんな些細なことでやり玉にあげるような子を友達だと思えるのか?ほかにもいい奴はいるだろう?そう問いかけられても、壊れたグループには居たくない。
「理久、目線だけで左の方を見ろ」
「うん。あ……、黒崎君だ」
トイレに行くのだろうか?如月君と並んでいる。こっちを見ている。その後ろから黒崎常務が声を掛けて、向こうの方へ歩いて行った。こっちに気づいたからだろうか。
(心配してくれたみたいだ。常務に何か言ってる……。こっちに来ようとしてる……。ああ、向こうへ行った……)
ああやって失敗を許してくれる子だったのか。こんなギスギスした空気感の中では目立ちたくないだろう?如月君は頑張っていたし、黒崎君はNOと言った。あのメンバーのことを怖がっていないようだ。
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