4-1 初めての食事デート

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4-1 初めての食事デート

 お気楽亭があるビルの前に到着した。俺の右手は枝川さんのポケットに入ったままだ。歩いているうちに離れるかと思っていたのに。何度か離れるタイミングがあったのに、その度に握り返されていた。 (帰らないって言い切ったのに……) 「佐伯君、ここが店だぞ」 「はい。えーっと……」 「二階にある。エレベーターはどこだったか……」  さっそくビルに入ると、すでに数人が前を歩いていた。その後に付いていくと、エレベーターの表示が見えてきた。何人か待っていたから後ろに並ぶと、グイっと右手を引かれた。 「枝川さん?どうしたんですか?」 「次のエレベーターに乗ろう。けっこう狭いから」 「あ、そうなんだ……」  たしかに待っている人数が多い。わざわざ詰め込まなくてもいい。朝みたいに急いでもいない。  すぐにエレベーターが到着した。団体が乗り込んでいる姿を、ぼんやり眺めた。ここは他に人がいない。そうでもしないと会話に困ってしまう。 (無理に話さなくてもいいけど……。ここまで来れば逃げないのに。逃げるって?)    帰るつもりがないのに。どういうことだろう。また自分の思考が分からなくなった。  モヤモヤしていると、枝川さんの距離が近づいた。手を繋いでいるから、そもそも大して離れていない。さらに近づいた。肩同士が触れ合っている。 「どうしたんですか?」 「警戒しているからだ。どうしてだ?」 「居心地が悪いからです。ああまで言い合いしたから……」 「へえ……」  枝川さんが吹き出した。こっちは全然、面白くないのに。俺の反応を見て楽しんでいる。すでに気を遣う気がなくなった。嫌われてもいいとまで思っている。 (どうでもいいや……。言いたいことを言おう……。あ、そうか……)  やっと気がついた。言いたい放題にすれば、枝川さんの方が嫌になるだろう。わざと怒らすようにすればいい。運が良ければ、早く帰れるかも知れない。  ガーーー。  エレベーターが到着した。先を譲られて乗り込んだ。繋いだ手が離れたからホッとした。しかし、ドアが閉じた後、壁の方に追い詰められた。コート同士が触れ合うほどの距離だ。 (首を絞められるのかな……。逃げ場がない……)  怖いのに冷静な自分がいた。だんだんと枝川さんが近づいてくる。後ろは壁だから後ずさりが出来ない。  そっと手が伸びてきて、顎を掴まれた。軽い力でも、顔を動かすことが出来ない。指先で下唇に触れられている。体が震えて、視線を向けるだけしか出来ない。 「あの……」 「逃げないのか。怖くないのか?」 「こ、こ、怖いに決まっているだろ!」 「へえ……」  小さく笑った後、顔を近づけてきた。ガンを飛ばされている。 「あの……。ケンカしたくない」 「どこがケンカだ?」 「ガンを飛ばしているからだよ!」 「違うよ。こういう事……」 「え?」  まさかキスをされるのか?その予感は的中してしまった。ビックリして息をするもの忘れている。何度も唇同士が重なっている。それでも動けない。 (足を踏もう。えーーっと。靴の上だと汚れるか……。膝も蹴れない……。どこを蹴ればいいかな……)  あれこれと考えながら右足を動かしていると、足を挟み込まれてしまった。下を向くことが出来ないから、どんな状態なのかが分からない。  ジタバタと動かそうと力を入れた。さらに押さえ込まれて、動かすことすら出来なくなった。 「枝川さん……あの……っ」 「まだキスの途中だ」 「エレベーターが……、2階へ……」 「まだ押していない」 「乗り込んで……くるって……んん」  何とか言葉を出している。抵抗するたびに追いかけてくる。何度もされているから息があがり、右手で体を押しのけようとした。
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