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1-1 天真爛漫なふりからの脱却
ーーー誰とでも仲良くしないといけない。
その呪いを解いてくれたのは、気の多い、ふざけた男だった。ちょっかいをかけられて、逃げていくうちに好きになった。でも、自分から突進すると逃げて行った。どこまでも追いかけてやる。メリーゴーランドのようで甘さのない関係。これが俺と幸也君とのストーリー。
***
俺の名前は佐伯理久。大学一年生だ。今、自分の部屋で、明日の荷物の支度をしているところだ。黒崎製菓のインターンシップに参加するからだ。3日間の短期だ。講義形式でグループワークもやるそうだ。同じ大学からは、学部内の友達が6人参加する。
「えーっと。こっちが資料、レポートノート、ペン。売り込み資料。これが一番大事なもの……。黒崎常務と話せるかな……。突進してみよう……」
年4回の開催のためチャンスは多いが、一流企業だから申し込み者が殺到している。エントリーシートの通過後、面接を通過した、狭き門の80名が参加する。
参加決定だけでも、落ちた子からは悔しさを隠した羨望の眼差しを受けた。他の6人も同じだとは思う。しかし、参加決定した子が、こんな嫌なことを話しかけてきた。
「佐伯さー、黒崎製菓のインターンに参加しなくてもいいだろ?」
「入りたい企業だからだよ」
「親のところに行かないのか?取引先とか銀行とかあるだろ?」
「うちのは行かなくてもいい」
「お前はいいよな。もしダメでも受け皿があるから」
「……」
俺の悪い癖だ。誰とでも仲良くしたいから言い返せない。
イジメられてはいない。俺が通った中高一貫校は男子校だったから、可愛い外見をしていると言われて人気者だった。12歳年上の兄がいることと、可愛がられて育ったことが影響して、甘え上手だと周りから評価されている。そして、性格がミックスされて ”可愛い理久君” の出来上がりだ。
深く考えない性格、空気を読まない、おっとりしている。何をやっても失敗しても、教師から叱られても……、友達からはこう言われていた。
「何だかんだいっても、理久には怒れないなあ」
「そうかな?」
「そうだよ。そのままでいてくれよ」
「ありがとう」
にこっと笑って、一件落着。いつもの繰り返し。
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