白い荒地から来た手紙

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「カシン・エン! もう終わりだ。ケラケラケラ」 銀色の長い髪を振り乱し、童女のようなあどけない顔と声。その口には小さな牙が見えている。このあまりにも小さい悪魔女が村々を破壊し、多くの人間やジョナの足、カシンの半身をも石に変えてしまったのか。ローランには、信じられなかった。 「ローラン、キアラは一切躊躇(いっさいちゅうちょ)せず攻撃をしてくる。心してかかれ」 「はい」 杖をキアラに向けて構える。 ローランとカシンのすぐ前で立ち止まるキアラ。杖は届かない距離だ。 目を大きく開きキアラは、黒魔塵を吹きかけてきた。避けようがない。近すぎる。 その時、強い風が、二人の背後からキアラに向かって吹いた。白竜ナルの羽ばたきだ。黒魔塵は、吹雪と白竜の羽ばたきによって、キアラの方に吹き戻される。 キアラは、今度は小走りで、ローラン、カシン、ナルの風上に立つ。 「くらえ! 邪悪なる息吹(いぶき)を! うわ! 何だ?!」 黒魔塵を吹き出さんとするキアラに、アナが体当たりをしたのだ。雪の中に倒れ込むキアラとアナ。 「こいつう。何すんだ。馬鹿者が! 石にしてやるよ」 「アナ! いつの間に! いかん!」 カシンは、動けぬ片足を引きずってアナの前に立った。 黒魔塵を吹きかけるキアラ。ローブを思いきり広げてカシンは、すべての黒魔塵をその身に受けた。 走り寄るローラン。カシンは、ローブを広げたまま完全に白い石と化していた。アナは、無傷だ。 カシンの言葉がよみがえる。 『キアラの前で、私が完全に石化したら。杖で私を砕きなさい』 杖を握りしめ振りかぶる。カシンをこの杖で叩き砕かないと。 「カシンさん……」 一瞬カシンとの思い出がローランを捕らえる。 『躊躇してはいかん。キアラは殺戮を待ってくれんぞ』 わかってる。わかってるけど。 「気の迷いか! だから人間は愚かなのだ! ケラケラケラ」 立ちあがったキアラが黒魔塵を吹く。
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