白い荒地から来た手紙

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躊躇したローランの手に、誰かの手がそえられる。その手の(ぬく)もりをきっかけにして、石化したカシンに杖が振り下ろされた。 きらきらと光りながら砕け散るカシン。小さなかけらが(ちり)となって黒魔塵と混ざる。 手をそえたのは誰かと振り返る。アナだった。 「さあ、早く!」 叫ぶアナ。 カシンが砕けた粉塵は、黒魔塵の魔力を消し去っている。ローランは、キアラに近づき思い切り眉間を大勇者の杖で突いた。 「ぎゃあああああああ」 眉間から深紅(しんく)の炎が噴き出てキアラを包み込む。瞬く間にキアラは燃え尽きてしまった。 あっけない最期だった。 アナが、手をはなす。アナの顔は、涙と鼻水でまみれていた。 「アナ……」 「おじいちゃん……ああ見えて、せっかちだったから……。待たしちゃだめなの……。私は、大丈夫だから。ローランさんはジョナさんのところに行ってあげて」 「うん。ありがとう!」 病院の二階に掛け上がって行くローラン。 「ジョナ! 帰ろう!」 故郷の村までとどくような声だった。 (はな)(ばな)れだった日々を取り戻すように、強く抱きしめ合うローランとジョナ。 「じゃあ僕も、帰るよ」 白竜ナルは、大きく羽ばたいて白い闇に消えていった。 アナは、カシンの砕けた粉塵が(きら)めいている雪を両手で掬う。 「おじいちゃん。みんなで、帰るよ」 いつの間にか吹雪は(おさ)まって、大小の星々が満天に(またた)いていた。 “Finis”
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