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郵便兵を見送って、ため息を一つ。
握りしめた封筒のしわを伸ばしながら、椅子にすわった。
白い荒地から来た手紙。ジョナからだ。もどかしさに震える手で、封筒を開ける。白い便箋にジョナの文字。
『ローラン、元気かい。そちらは、今からが寒くなる季節だよね』
手紙から優しく語り掛けるジョナ。抱きしめられた時の温もりが蘇る。
『僕は、両足を負傷した。でも命に別状はないから、心配しないで。軍の迎えがきたらすぐに帰れる。ひとつお願いがある。野戦病院の看護婦に、隣家に住むカシンさんの、孫のアナがいた。彼女は志願してここに来たそうだ。すぐにカシンさんに彼女の無事を伝えてほしい。もうすぐアナも帰ると』
そういえば、アナもまだ帰って来ていない。
手紙は続く。
『キアラとの戦いは凄惨だった。白い荒地は恐ろしい所だ。一刻も早くここを去りたい。早く君の笑う顔が見たいよ。 最愛の人ローランへ』
「私も、ジョナの顔が見たいよ」
手紙を読み終えたローランは、隣の家に向かった。アナの無事を祖父のカシンに知らせるためだ。
ドアを、軽くノックをする。
「カシンさん」
扉が開くと、長身の老人が立っていた。ゆったりとしたローブを纏い、鼠色の短い髪。
「ローラン。どうした」
「実は今、ジョナから手紙が届いて。アナさんの無事をお伝えに来ました」
カシンは、
「そうか。よかった」
と言って、ローランを家に招き入れる。
椅子に座るとすぐに、手紙の内容をカシンに話した。
「知らせてくれてありがとう、ローラン。実は明日、軍の『帰還兵士管理事務所』へ行って、アナとジョナの安否を聞きに行くつもりだったのだ」
「私も軍の事務所に、ご一緒していいですか?」
「構わんよ。ただ、悪魔女キアラがまだ退治されていないのが気がかりだ」
「え? どういうことですか」
「キアラは、破壊と殺戮のみを喜びとする魔物だ。昔、この国に現れて暴れまわった。その時は、国王と大勇者が白い荒地にある、紫水晶の洞にキアラを封印したのだ。それがなぜ今頃……」
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