13人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
白い荒地も間近に迫った頃だった。
道端で白い竜が、数人の男たちに囲まれて、暴行されていた。
「カシンさん、あれ、見て下さい!」
男が、白竜を蹴っている。
「お前は、キアラの仲間だろう! 俺の村の人間が大勢殺された! 許せねえ!」
白い竜を足蹴にする男たち。
「いかん! 殺されてしまう。ローランそこの杖を取ってくれ」
馬車を止めると、老人とも思えぬ身のこなしで、馬車から飛び降りるカシン。ローランは、荷台にあるカシンの身長ほどの杖を握ったが、
「カシンさん! この杖重い! 持ち上がりません」
見た目は竹の杖なのに。
「そうか。私が取る」
カシンは、杖を軽々と持ちあげた。不思議がるローランを後にして、カシンは一団に向かって行く。
「お前さん方、もう止めておいたほうがいい」
カシンが、うずくまっている白竜の前に立つ。
「何だこのジジイ、邪魔するんじゃねえ。そいつは、魔物だ。俺たちの村の仲間が、大勢殺された」
体の大きい男が拳を振りあげて、カシンを威嚇する。
「ち、ちがう。僕は、白い竜騎士団と一緒に戦った」
白竜は、人間の言葉を喋ることができる。顔を上げた白竜の目は、黒い石と化していた。
「ほれ見ろあの目を。化け物だ!」
男は、また白竜を蹴ろうとした。カシンは、素早く杖先で男の脛を突く。
「ぎゃ!」
杖の一撃で大の男が、苦悶の表情で倒れた。血気にはやった男たちが、カシンに襲い掛かる。長い杖を縦横無尽に操って、カシンは確実に男たちの急所を突いたり、打ち払ったりする。ローランにはカシンが杖を持って舞っているように見えた。
「カ、カシンさんて何者?」
誰一人としてカシンに触る事さえできないのだ。男たちは、急所を押さえながら散り散りに去って行った。
最初のコメントを投稿しよう!