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「大丈夫か」
カシンは、なでるようにそっと白竜に触れた。
「あ、ありがとう。あなたは?」
「私は、カシンという者だ。君は何と言う? 白竜君」
「僕はナル」
「ナル。よく我慢したな。目が見えないとはいえ白竜だ。あんな男たちなど一ひねりだったろうに」
ローランも、ナルの所に来て顔を覗き込む。
「それじゃあ、殺されてしまうと言ったのはナルの事じゃなくて、あの男たちの事ですか」
「そうだ。ナルはまだ子どもだな。軍の竜騎士団は、子どもの竜まで駆り出したのか……。その目は、キアラにやられたのだな」
「はい……。悪魔女キアラとの戦いで、黒魔塵が目に入って石になって」
ローランも、ナルを触りながら言った。
「私はローラン。負傷した夫を迎えにここまで来たの。あ、カシンさんひょっとして、ジョナの足は……」
「うむ。キアラの黒魔塵によって石化したのかもしれない。それで動けないのだ」
「悪魔女キアラってどんな奴なんですか?」
「かなりたちが悪い魔女だ。15年前の流行り病もキアラの仕業だった。あの時、封印したはずなのだが……」
ナルが語り始めた。
「そうです。キアラは今まで、紫水晶の聖洞に封印されていました。ところが、二月前に大きな地震が起こって、聖洞の封印が崩れたのです。キアラは、黒魔塵という魔法で、手当たりしだいに村を襲い、人間をみんなを石にしてしまった。さらに、キアラは軍隊をも石化しました。さも嬉しそうに。僕たち白竜は、騎士を乗せてキアラと戦いました。でも、ほとんどの白竜と騎士が石になってしまった。僕たちは撤退しましたが、風で飛んできたほんの少しの黒魔塵が、僕の目に入って石化したんです」
「そうか、よく戦ったな。それで、キアラはどうなった?」
「紫水晶の聖洞に向かいました。二度と自分がそこに封印されないよう破壊するためです。その間に、軍は完全撤退したのです」
「わかった。ところでナルよ、目が見えるようになったら再びキアラと戦う勇気はあるか?」
カシンは、ナルの頭に手を当てて静かに言った。
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