白い荒地から来た手紙

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「どうすればいいんですか! 何でもやります!」 「もうすぐここに、キアラが来る。大勇者の杖で、キアラの眉間(みけん)を突くのだ。そこがキアラの弱点だ。キアラを(めっ)するにはそれしかない」 「でも、わたしには杖が重すぎて、持てません。あれは、大勇者しか持てない杖。無理です」 「私に残された聖なる力の全てを使って、大勇者の力をローランに与える。そうすれば、杖も使えるようになる。そして、キアラの前で、私が完全に石化したら。杖で私を(くだ)きなさい。私は粉塵(ふんじん)となりキアラの黒魔塵を無力(むりょく)にする。その時が、キアラに近づける唯一の機会となるだろう。わかったな。躊躇(ちゅうちょ)してはいかん。キアラは殺戮(さつりく)を待ってくれんぞ」 「カシンさんを砕くのですか……」 「そうだ、(ひる)んではいかん」 ローランは、ごくりと唾を飲み込んでうなずく。 白竜のナルが、東の方を見て叫んだ。 「カシン様! キアラだ、こっちに来る!」 吹雪の中、黒いローブを纏った人影が、近づいてくる。 「あれがキアラ?」 悪魔女キアラは、ローランほどの背丈(せたけ)で、銀色の髪をなびかせる少女の姿をしていた。猫のように目を細め薄笑いを浮かべている。 「ローラン、こちらを向いて(ひざまず)きなさい。急がねば」 カシンは、不自由な体を杖で支えて、立ちあがった。石化をしていない左手を開いて、天に向かって延ばす。 「大勇者の全ての力を、ローランに与える」 そう叫んで、カシンは左手でローランの頭を包む。 一瞬の静寂。 「よし」 「え?」 顔を上げる。何も感じなかった。 「私の力の全てを今与えた。これを」 大勇者の杖を指し出すカシン。恐る恐る受け取るローラン。 「軽い……。持てます。カシンさん、これが大勇者の力?」 「うむ。たのんだぞ。ローラン」 「はい!」 病院の二階の窓から、ジョナとアナが心配そうにこちらを見ていた。カシンがアナに声を掛ける。 「アナ、お前もいろいろと恐ろしい目にあったのだろう。今それを終わらせる。そこから出てはいかんぞ!」 「おじいちゃん!」 涙を流しながら手を振るアナ。 バサバサと羽音をたてて白竜ナルが、起き上がった。 「きたよ!」
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