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二月前の事だ。悪魔女キアラが封印を破り、『白い荒地』に姿を見せた。
小国アウストラリスの軍隊は、災厄をまき散らすキアラを、騎兵隊、歩兵隊、弓弩隊そして、白い竜騎士団で迎え撃った。
敵は、邪悪なる魔女たった一人。
キアラは、黒魔塵という粉塵を口から吹く。黒魔塵に触れたものはすべて石になってしまう。こうして村々や抗う者をことごく冷たい石に変えていった。
戦いは8日間続き、アウストラリス軍は壊滅し、即時撤退。
キアラはいずこかに姿を消した。
軍隊が撤退して一月がたつ。
ローランは、波打った荒い後ろ髪を束ねて、朝の掃除にかかる。カーテンを左右に分け窓を開け放す。流れ込むのは冬の空気。
ジョナは今頃どこで何をしているの。不安と寂しさの中で、今夜も独りのベッド……。いや、絶対今日こそ帰って来る。
深呼吸をして気を取り直し、腕まくりで箒を手に取る。
ジョナ=オーエンとは一月半ほど前に、ささやかな結婚式をあげた。
幼い頃から、一緒になることを誓い合った仲だった。
夢がかなった結婚の翌日。朝一番で、若いジョナに軍からの召集がかかる。
夫婦として共に過ごしたのは一夜だけ。
ジョナは白い荒地に出征して行った。
半月後、軍は撤退したが、ジョナはまだ帰らない。
「ジョナ=オーエン二級兵士の妹さんですか?」
顔をあげると、くたびれた軍服を着た青年が窓際に立っている。
「ジョナは、私の夫ですが……」
小柄で童顔のローランは、二十歳で人妻だが幼く見られる。
「失礼! 自分は軍の郵便兵です。ジョナさんからの手紙を、届けにきました」
青年は、カバンから茶色い封筒を取り出しローランに手渡す。
「では、これで」
敬礼をして、窓際から離れようとする郵便兵にローランは、慌てて声を掛ける。
「待ってください! 戦いは終わったんですよね。軍が撤退をして一月もたつのに、夫はまだ帰ってこない。ジョナの事を何か知りませんか?」
「知りません!」
郵便兵は逃げるように去って行った。
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