クリスマスツリーの前で別れましょう。

1/4
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 大好きな映画がある。  お互いを想いあっていた少年少女が親の事情で引き離され、別の人と結婚。  子供を産んでもやはり初恋は忘れられずお互いの想いを手紙にする。  それは出されない手紙。  それぞれの死後、孫たちがその手紙を見つけて、思い出の地に足を踏み入れる。  そこで再会するそれぞれの孫。  祖父母たちのように、恋に落ち、今度こそ結ばれるという恋物語だ。  映画だけの出来事だと思っていた。  だけど、私はおばあちゃんの遺品の中から、手紙を見つけてしまった。  五年前に亡くなったおばあちゃん。  家の管理を任せていた叔母が結婚することになって、おばあちゃんの家を売ることになった。  だから家のものを片付けるため、学生で一番暇そうな私が呼び出された。  まあ、片付け得意だったのもあるけど。  叔母と私は結構仲よくて、まさか叔母さんが結婚するなんて思わなかった。  しかも国際結婚。騙されてると思ったけど、相手の人に会ったら、まあ、いい人だった。  日本のことが大好きな人。  叔母は英語がペラペラだったし、お相手の国へ結婚を機に引っ越すことにしたみたいだ。  叔母は思い切りが良すぎる。  一緒に片付けしていたら、おばあちゃんの手紙を見つけて、うひょーと言いながら迷いなく開けたのは叔母だ。 「みなみ。こういうの好きでしょう?」  叔母はにやっと不気味に笑う。  叔母と私はよく似ている。どうやら私たちはおばあちゃんに似ているみたい。  母はおじいちゃん似のようだ。  ぼったりとした一重の目に、小さな口。可愛らしいといえば、そうなんだけど、古風な顔すぎて好きじゃない。  しかも私の場合、眼鏡までかけてるから、なんていうか地味もいいところの顔に仕上がっている。  伯母はその小さな口を歪めて、私を外に誘う。 「私が車を出してあげるよ。この思い出の場所に行かない?ちょうどクリスマスイブだし」  そう、今日はクリスマスイブ。  十七歳の私、クリスマスに約束はない。  彼氏どころか、男友達もいない。  あと、友達はいるけど、みんな家族と過ごすって言っていた。  まあ、私は陰キャだし、友達もそういうタイプだからね。  だから、叔母に誘われ、美味しいものも食べさせてくれるって言うから、片付けを手伝うことにした。  旦那さんは、日本にいない。どうしても外せない約束があって、国から出られなかったみたい。  あ、国ってアメリカ。叔母さんはアメリカ人と結婚した。  アニメ好きなアメリカ人。叔母もアニメ好きなので、そこからお付き合いが始まったみたい。ちなみに出会いはインターネット。  まあ、よくあるよね。 「美味しいもの食べて、それからその場所へ行ってみようよ。もしかしたら、彼が来てるかもよ」 「彼って?!」 「もちろん、お母さんのいい人だった人よ」 「叔母さん、会ったことあるの?」 「ないけど」 「だったら、会ってもわかんないね」 「そうだけど、クリスマスイブにクリスマスツリーの近くにいるおじいちゃんだったら、確実に彼でしょ?」 「うーん。そうだけど」 「ほら、行こう!」  片付けもそこそこに、私たちはおばあちゃんの思い出の場所に行くことになった。  思い出の場所とは、おばあちゃんたちが最後に会った場所。  おばあちゃんが十四歳の時のクリスマスイブの夜。  家からこっそり抜け出して、町で一番のクリスマスツリーが飾ってある場所で、彼とこっそりキスをしたみたい。  おばあちゃんが十四歳って言ったら、今から五十年くらい前。五十年前は、今みたいなあっちこっちにクリスマスツリーが飾られることもなくて、珍しかったはずなんだけど、そんな場所で大胆な。  っていうか、私十七歳だけど、キスどころか好きな男の子すらいないのに。  ロマンチックな話でいいなっと思うけど、それがおばあちゃんだと考えると微妙だ。しかも、結婚したのは別の人。おじいちゃんはこのことを知っているのかな? 「ん?どうしたの?」  運転していた叔母さんを思わず見てしまって、聞かれてしまった。  叔母さんの視線は前を向いたままだけど。 「あのさ、叔母さんは知っていたの?こういう話があったって」 「知らないわよ。だけど、お母さんがずっと誰かのことを想っていたのは気づいていた。きっとお父さんは気がついてなかったと思うけど」  叔母さんは少しだけ寂しそうに笑う。 「……どうして二人は別れたのかな」 「さあね。お母さんはこんなこと話したことなかったから」 「嫌な気持ち?」 「うーん。正直ちょっと嫌かな。悪いことをしてるわけじゃないけど、不倫みたいじゃない?」 「え?だって、結婚する前だよ」 「だけど、ずっとその彼のことを思っていたんでしょ?それこそ手紙を書いてしまうくらいに」 「うん。そうだけど」  私にとっておばあちゃんはちょっと遠い存在だ。あまり会ったことなかったし、あの家に行くようになったのは、おばあちゃんが亡くなって、叔母が住むようになってからだから。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!