ドーパミンは出なくとも

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 三年たったら恋は冷める。それは昔、花織との話題に上ったことがあった。脳内物質の効果とか、生存本能とか、人間としては避けられないかもしれない、でもそれが全てではないと、そういう話をした。  だから今花織が言ったのは、今日この日だけのことではない。たまたま今が三年目だというだけで、でも言葉はそうやって簡単に呪いになる。  一度気になってしまえば効き目は早く、この今日は花織なりに、次の三年に向かうためのものだったのだ。 「今日、楽しかったよ」  付き合った三年と結婚してからの三年で、花織と積み上げてきたものは確かにある。恋とか愛とか、この先もし、例えば三年後にそれがなくなったとして、急に全てが終わるなんてこともない。  よく行った公園。昔飲んだホットワイン。出会った頃に近い髪型。今日だって、もちろんこれだけでも楽しくて、でもこれまでの出来事があったからこその、上乗せの楽しさがある。 「ありがとう」  花織は目を瞬かせてから、小さく笑った。ほどけるような笑顔で「うん」と言って、前へ向き直った。  俺はそっと、その表情に息をついた。  これが嘘偽りない言葉だということも、今日までの日常の積み重ねがあったから分かる。それは逆も然りで、今日の、今この瞬間だけを解決したとしても、大団円とはならない。 「あと、帰ったら色々話したいんだけど」  そう、だからまだ話したいことがある。勘違いさせていることも、どう思っているかも、ちゃんと口にするべきだ。 「――色々?」 「色々」
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