ドーパミンは出なくとも

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 笑って言うと、湯原は一つ瞬きをしてから「そっすね」と吐息に笑みを混ぜた。伏し目になったその先で湯原の彼女――もとい、奥さんは笑みを浮かべている。 「秀次」  小さく硬い声で、行こう、とまた肘辺りを軽く叩かれる。それほど話し込んでもいないのに、速いリズムは解散を急かすようだ。 「じゃあまたな。今度お祝いさせて」 「ありがとうございます」  お辞儀をした二人に俺は手を上げて、花織は頭を下げた。伸ばし始めた髪が耳から溢れて、その横顔は見えなかった。  一定の速度で踵が打ち鳴らされる。大きくなった歩幅はゆったりとしているように聞こえて、頑なに外部を拒んでいる。  二人と別れてから「帰ろう」と言ったきり、花織は口を開いていない。駅について、電車に乗って、下りてからもずっと。  寒さがこたえたのか疲れたのか、いくつか理由を上げてみたがどれもしっくりこない。放っておけばひとりでに機嫌が直っていることもあるが、これはたぶん違う。俺の視線にも、何度か口を開きかけたことにもおそらく気づいていて、花織は前を向いたまま。  道にはクリスマスソングが流れ、ショーウィンドウには赤と緑の逆三角が垂れ下がる。落ちた沈黙が際立って、足が重く感じる。  角を曲がって、周囲に人がいないのを確認してから、俺は髪に隠れた顔をうかがった。 「――何かあった?」
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