2.はにかんだ発芽

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2.はにかんだ発芽

 四年目、花婚式。  今年も憂鬱な日がやってきた。  仰々しい花束と山積みにされた果物が放つ甘ったるい香りに、めまいがする。 「花なんてすぐ枯れるだけなのに。果物だって、一度にこんなに食べきれないでしょう?」 「ごめんね。果物はジュースにしてみるよ! 花はドライフラワーとかポプリにしてみようか」  機嫌をとるために無駄な苦労を背負おうとする彼に、なおさらイライラした。 「お願いだから余計なことをしないで」  いつまでこの茶番を続ける気なのーー? ◇◇◇   五年目、木婚式。 「去年はごめんよ、大袈裟なのは嫌だったよね?」  彼はそう言って、汁椀を二つ差し出した。 「この前、長野で見つけたんだ。赤と黒、どっちがいいかな?」 「……言っとくけどこれ漆塗りだから、電子レンジ使えないよ。貧乏暇なしなのに」  私の皮肉に彼は屈託なく微笑み返した。 「丁寧に暮らしたいからさ」  なんて曖昧な理由で非効率を正当化するのだろうーー。 ◇◇◇   六年目、鉄婚式。  去年のデジャビュを感じた。 「鉄のフライパンって……。重いし、手入れも面倒なのに」 「うん、でもこれで料理すると美味しくできる気がしてさ。母さんも使ってたし……」 「実家に戻ってもいいよ? 関係者への報告はお願いしたいけど、自分のことは自分でケリをつけるし……。お義母さんも喜ぶかもよ?」 「マジで言ってる? 母さんや僕がそんなこと望んでるって思ってるの?」  彼が声を荒げるのを初めて聞いた。  なによ。離婚の話題なんて、私ずっとしてきたのに、今更ムキになるなんてーー。
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