10人が本棚に入れています
本棚に追加
2.はにかんだ発芽
四年目、花婚式。
今年も憂鬱な日がやってきた。
仰々しい花束と山積みにされた果物が放つ甘ったるい香りに、めまいがする。
「花なんてすぐ枯れるだけなのに。果物だって、一度にこんなに食べきれないでしょう?」
「ごめんね。果物はジュースにしてみるよ! 花はドライフラワーとかポプリにしてみようか」
機嫌をとるために無駄な苦労を背負おうとする彼に、なおさらイライラした。
「お願いだから余計なことをしないで」
いつまでこの茶番を続ける気なのーー?
◇◇◇
五年目、木婚式。
「去年はごめんよ、大袈裟なのは嫌だったよね?」
彼はそう言って、汁椀を二つ差し出した。
「この前、長野で見つけたんだ。赤と黒、どっちがいいかな?」
「……言っとくけどこれ漆塗りだから、電子レンジ使えないよ。貧乏暇なしなのに」
私の皮肉に彼は屈託なく微笑み返した。
「丁寧に暮らしたいからさ」
なんて曖昧な理由で非効率を正当化するのだろうーー。
◇◇◇
六年目、鉄婚式。
去年のデジャビュを感じた。
「鉄のフライパンって……。重いし、手入れも面倒なのに」
「うん、でもこれで料理すると美味しくできる気がしてさ。母さんも使ってたし……」
「実家に戻ってもいいよ? 関係者への報告はお願いしたいけど、自分のことは自分でケリをつけるし……。お義母さんも喜ぶかもよ?」
「マジで言ってる? 母さんや僕がそんなこと望んでるって思ってるの?」
彼が声を荒げるのを初めて聞いた。
なによ。離婚の話題なんて、私ずっとしてきたのに、今更ムキになるなんてーー。
最初のコメントを投稿しよう!