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3.ほころぶ蕾
七年目の銅婚式には銅のタンブラーをもらった。
「実用品で攻めることにしたの?」
半ば冷やかすように問う私に、彼は得意げに答えた。
「うん。味気ない食事が少しでも豊かになればって思ってね」
「別にそんなことないけど……」
食事に不満はないとフォローしたつもりだったが、彼には伝わらなかったようで、返事はなかった。
人を思いやることすらままならない自分が恨めしい……。
◇◇◇
八年目の結婚記念日。
「青銅婚式じゃなくて、ゴム婚式の方にしたんだけどーー」
「お祝い自体、私はいらないんだけどね。ゴムサンダルでも消しゴムでも、勝手にすれば?」
彼はうんと頷くと、私の髪を撫でるように手櫛を通し、右耳の下でまとめた。
鏡の中では、自分には不釣り合いに可愛い桜色のシュシュが艶やかに光っていた。
「アクセサリーはいらないってば!」
金切り声を上げる私に、彼は普段と変わらぬ優しい声で答えた。
「これは絹でできてるからね、髪にいいんだって。トリートメント代わりなんだ! シルク婚式はまだ先だけど、ヘア『ゴム』だからいいでしょ?」
鏡越しにヘラヘラ笑う彼を見て、私はなぜか耳が熱くなった。
◇◇◇
九年目、陶器婚式。
「また食器かと思った」
「植木鉢でした〜! かわいいでしょ? 」
サボテンを可愛いと言う彼の感性がよく分からなかった。
「トゲトゲで、花もないのに?」
彼はイタズラっぽく笑い、私の目を覗き込み言った。
「うん。大好き」
目線を外した私を捕まえるように、彼は私に抱きつき囁いた。
「えっちゃん、大好き、愛してる」
毎年チクチクされて、打たれ強くなったみたいね。
彼の背中に腕を回すことができない自分がもどかしい……。
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