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5.落花のかげり
二十年目の磁器婚式。
私が100均の茶碗をリクエストしたことに、彼は納得がいかないようだった。
「五年ぶりの記念日なのに、よかったの? 割れたものの代わりなんて……」
「どんな食器だっていいよ。あなたと一緒ならなんでも美味しいから」
彼は目を丸くした後、くしゃっと笑った。
「次からは大盤振る舞いするからね! 二十五周年が銀、三十年周年が真珠、三十五周年がサンゴでーー」
「そんなに長くは生きられないわよ。次の銀婚式には五十代。私の体は衰える一方なんだから……」
「じゃ、繰り上げて毎年祝おう! 五年おきなんて寂しいと思ってたんだ! 最後のダイヤモンド婚まで、あと八回だね!」
明るく振る舞う彼。
「そうね。でも、千円代にして。これ以上あなたに負担をかけたくないの」
最後まで祝い切ったら彼も、私を養うという責任から解放されるかしらーー。
翌年から私たちは、五年おきに訪れるはずだった結婚記念日を先取りして祝った。
◇◇◇
銀婚式にはアラザンの乗った手作りクッキーを二人で食べた。
銀色の小粒のざらつきも、その正体が分かっていれば、結構面白く感じられるものだ。
彼にとって私は、この銀粒のような存在だったのかも知れない。
◇◇◇
真珠婚式には山ほどマシュマロを食べた。
フワフワと優しい口どけに、学生時代のホワイトクリスマスを思い出した。
降ってきた雪を舌でキャッチして、ケラケラ笑っていたっけ。
今思うとバカだったけど、純粋に楽しかったな。
◇◇◇
珊瑚婚にはコーラル色のベリームースを、ルビー婚には宝石みたいなさくらんぼを、ひたすら貪った。
まるで、「あの日」を境に送り飛ばされてしまった、甘酸っぱい日々を取り戻すようにーー。
◇◇◇
そしてサファイア婚。
「これくらいしか思いつかなかったんだ……」
彼は謝りながら青リンゴを差し出した。
「ううん、これがいい。青なんて、見たくもないからーー」
「本当にごめん……」
「だから、あなたは悪くないってば!」
ずっと封印してきた涙が堰を切った。
あの日、幸せいっぱいの新婚旅行中、突然飛び込んできた青い車に、私の首から下の自由は奪われた。
誰が悪かったわけじゃない。ただ不運に見舞われただけ。
どうにもならないことを嘆いても無意味だと、自分に言い聞かせ、割り切ってきたのに……。
文字通り、ブルーな結婚記念日だった……。
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