青い薔薇の咲く場所で

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「正直に答えろ。嫌だったか」 その問いに俺は首をかすかに横に振る。その反応に満足したのかまた反対側の椅子に座って俺を見つめるので、俺は恐る恐るケーキスタンドに乗るケーキを手に取り口へ運んだ。 ほとんどパンとスープで過ごしてきた俺には初めての味で、甘くてふわふわで頬に熱いものが伝い落ちた。 「毒か」 ガタッと立ち上がるギルに首を振り、どう伝えたら良いのか悩んでいたがギルはまた椅子に座り直して頬杖をついて俺を見つめてくる。 暖かな日差しの中で、庭でこんな穏やかな時間を過ごす日が来るとは思わなかった。毎日毎日部屋の窓から四角い空を見上げていたが、空がこんなに広いなんて知らなかった。いや、忘れていたのかもしれない… 「シキ…だったか」 名前を呼ばれ、こくんと頷いて見せる。納得がいったと言わんばかりに口元を隠しながらケーキを食べながら紅茶を飲む俺を見つめてくる。 「もうこの城に二度と戻れなくても後悔はしないか」 突然の問いに手が止まる。思い返せば俺は邪魔者扱いばかりされていて、弟と比べられては出来損ないと罵られ父にもよく打たれていた。俺など居ない方がきっとこの国の未来の為にもなる… 頷けばギルは小さくそうかと呟いたきりまた黙って袖で涙を拭おうとする俺の手を止め、親指で優しく拭ってくれる。いつも泣いた時は袖で目が腫れるほど擦っては膝を抱えていたが、ギルの無骨ながら優しい手は俺の心も優しく包み込んでくれたような気がした。
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